シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

父親と魔法と

子供の頃、自分の父親は凄いと思っていた。力持ちで、何でも知っていて、何でも出来て、まるでヒーローみたいだった。いつ頃だろう。そんな魔法が解けてしまったのは。物心がつくと、父さんは極平凡なただの親父になっていた。
娘の友達のお父さんが、海外へ転勤になった。長期化しそうなので、奥さんと子供も一緒に行く事になったそうだ。そのお父さんは地元の大手企業に勤め、仕事は研究開発。そんな難しそうな仕事柄偏屈な人かと思いきや人当たりの良い人で、几帳面で、マメで、よく子供の相手をして、よく奥さんの相手をして、アウトドアが好きで、一つ屋根の下一緒に暮らせば不平不満の1つや2つは出るかもしれないけど、傍から見ている限りでは非の打ち所がない様な人。そのお父さんに限らず僕の周りには新聞社のカメラマンだとか、いつも爽やかな学校の体育教師とか、事業経営者とか、結構凄い人が何気なく居て、海外勤務の話を聞いてから何だか僕は自分がやけに小さく思えてきた。他人と優劣を比較するなんてナンセンスだよ。そう。そんな事分かってる。だけど、それは人よりも優位にある人だから言えるセリフであって、あらゆる事柄が劣る人間が言っても虚しくなるだけのセリフ。
それでも僕は、油と埃で真っ黒になりながら、目の前に山積するくだらない仕事を1つ1つ黙々と、でも貪欲に消化していくよ。一見くだらなく思える他愛ない仕事の中にも、自分を伸ばすキッカケがきっと有るに違いない。誰も凄いと思ってくれなくても、子供達が魔法から覚めてしまっても、「パパはね、仕事が好きなんだ。そして、仕事をがんばってるんだよ。」って、嘘偽りなく胸を張って言える様に、僕は今日も小汚い工場の片隅で黙々と仕事をしている。