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目指すのはジャンガリアンな生き様

 秋の花火

秋の花火 (文春文庫)

秋の花火 (文春文庫)

★★★★★

彼の抱えた悲しみが、今、私の皮膚に伝わり、体の奥深くに染み込んできた−。人生の秋を迎えた中年の男と女が、深く静かに心を通わせる。閉鎖した日常に訪れる転機を、繊細な筆致で描く短編集。(本書裏表紙解説より)

レビュー
書店でパラパラと斜め読みした時は、冴えない中年男がふとしたキッカケにより観覧車でラヴロマンス?みたいな内容を想像したのですが、まぁ確かに端的に言えばそんな感じではあるのですが、あまりに不遇で残酷なまでにみじめに描かれていて、もう良いです。もう充分ですから。と言いたくなるくらいで、そしてそれは僕自身にも当てはまる事で、仕事でもプライベートでも友人が居ない冴えない中年男という現実を浮き彫りにされて、明るい展望で終わる結末にも係わらず読んだ後にかなりへこみました。
冴えない中年、閉鎖的で単調な日常、老い、老後に介護、そういう現実をリアルに描き突きつけてきます。話を聞くだけで、「うん。そうだね。」って言ってくれるだけで救われる事だって有るんだよね。
表題作の「秋の花火」と、「戦争の鴨」が個人的には良かった。「戦争の鴨」は単純にオチが面白かったという事と、「秋の花火」は、チェロの音色にのせる感情や安っぽい花火の炎で通い合う心情がなんとも切なくて、でも中年のくせに可愛らしくて良かった。いや、ああいう慎み深さは大人だからこそかもしれません。
特に「観覧車」は、今まで目を背けていた自分の状況や心情を目の前に突きつけられたようで、僕にとっては強烈なインパクトはありました。こんなに衝撃を受けるのも珍しいですが、ネガティブな方向へ衝撃を受けたのでしばらくヘコみそうです。良いとか悪いとかじゃなくて、そこまで影響を与えたという点で★5つ。でも、中年の話なので、中年じゃないと面白くないと思います。