- 作者: 村上春樹
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「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(第1部泥棒かささぎ編より)
「今はまちがった時間です。あなたは今ここにいてはいけないのです」しかし綿谷ノボルによってもたらされた深い切り傷のような痛みが僕を追いたてた。僕は手をのばして彼を押し退けた。「あなたのためです」と顔のない男は僕の背後から言った。「そこから先に進むと、もうあとに戻ることはできません。それでもいいのですか?」(第2部予言する鳥編より)
僕の考えていることが本当に正しいかどうか、わからない。でもこの場所にいる僕はそれに勝たなくてはならない。これは僕にとっての戦争なのだ。「今度はどこにも逃げないよ」と僕はクミコに言った。「僕は君を連れて帰る」僕はグラスを下に置き、毛糸の帽子を頭にかぶり、脚にはさんでいたバットを手に取った。そしてゆっくりとドアに向かった。(第3部鳥刺し男編より)
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レビュー
文庫の裏に書かれた紹介文を読んでも、どんな内容なのかサッパリ分かりかねますが、書店で読みかじった分では何となく面白そうなので買って読んでみました。
読んでみると面白くて引き込まれます。一体どんな展開になるのか予想が出来ません。そしてその都度衝撃を受けます。第1部では間宮中尉の昔話で吐気をもよおし(本当にしばらく食欲が出なかった)、第2部ではクミコの手紙に衝撃を受け(あんな事書かれたら僕なら立ち直れない)、そして第3部のラストでは衝撃の事実が!なんてこった。1人じゃないのかよ!?(ってドコに驚いてんだ)。とにかく、次々と面倒な事態が降りかかってきて、読み出したら止まらないです。
でも、手放しで満点という訳でもないです。ラストでは散らばっていた人物や事象が1つに集約するか、もしくは1直線に繋がるのかと思っていたのですが、そうでもないような。もっとキッパリスッキリと全てが明らかになるのかと思っていたのですが、謎が謎のままであったりします。この辺りはあまり書くとつまらなくなるし、僕が読みきれなかった部分も有るかもしれません。
村上春樹の作品はノルウェイの森しか読んでませんが、どちらも精神面というか、人の内面的なものを深く掘り下げています。こういう文章が書ける人って一体何を考えているのでしょう。とにかく強烈なインパクトはありました。