シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

HONDA XR600R スペックとインプレッション

 

 

不動車状態からの整備も一通り終わり車検も通して乗れる状態になった所で、そろそろ詳細の紹介でも。XR600RはKing of off-roadでオフ車に乗るライダーなら誰でも気になるバイクの1つかと思ってたんだけど、意外にネット上ではあまり情報が出てこない。あれ?おかしいな。もしかして結構アレなバイクだった? 

評価するに当たり、僕の今までの車歴はこんな感じ。もう随分と更新していなのでこの後にTLR200とかヴェクスターとかハンターカブとか追加されている。オフロード歴はそこそこ長く過去にエンデューロレースにも参加していたのである程度の知識と技術は有るだろうけど、特別上手い訳でもないし最新のマシンには乗っていないのでそれらと比較する事は出来ない。また、何と比較するか、何を重視するかで評価は全く異なってくる。XRを知っている人からすれば「そうじゃない」という点も多々有ると思うけど、ネット上の個人ブログなのでかなり主観的な1意見という事で流して頂きたい。

 

スペック(年式、仕様により異なる)

名称 XR600R

型式 PE04

エンジン 空冷4st SOHC4バルブ単気筒 591cc

ボア×ストローク 97×80

圧縮比 9.0:1

キャブレター ケイヒンPDφ39

点火方式 CDI

始動方法 キックのみ

出力 46hp/6000rpm 51.9Nm/5500rpm

変速機 5速リターン

ファイナル F14T/R48T チェーン#520

フロントサスペンション ショーワ製正立φ43 トラベル295mm

リヤサスペンション Pro-Link ショーワ製 トラベル280mm

フロントブレーキ シングルディスク256mm NISSINピンスライド2ポッドキャリパー

リヤブレーキ NISSINピンスライド1ポッドキャリパー

フロントタイヤ 80/100-21

リヤタイヤ 110/100-18

ホイールベース 1455.4mm

シート高 955.0mm

最低地上高 345.5mm

乾燥重量 134kg

タンク容量 10.5リットル

加速性能 1/4マイル 14.6秒/134.5km/h

トップスピード 143.2km/h

 

 

 

XR600R(1992年式)車体外観-左。発売が1980年代なので非常にオーソドックスというか、現代のマシンと比較するとかなり古典的で旧車的な外観。元々がレーサー(競技用/公道走行不可)なので余計な物が一切無く非常にシンプル。基本的な所はかなりしっかりと造られていて、ロングセラーだから熟成もされている完成度の高いバイク。

 

外観-右。スチール製セミダブルクレードルフレームに、フロント正立サス、リヤにリンクサスを装備するオーソドックスな構成。600ccのパワーにこのフレームでは貧弱じゃないか?と思えるけど、実際乗るとそんな事は無くかなりしっかりしている。1992年式なので26年落ちで程度はそれなり。大型バイクとは思えないコンパクトな車体で、ライダーでさえみんな「250cc?」って聞く。一目で600と見抜ける人はまず居ない。

 

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エンジン外観(左)。外観は何てことない古い空冷単気筒エンジンだけど、フィールは強烈で個性的。RFVCというロッカーアームが2重になっている特徴的(というか変態的)なシリンダーヘッドを持つ。その目的は燃焼室を綺麗な半球形にする事とバルブを大径化する事で、それにより強烈なパンチ(トルク感)を生み出す。ビッグシングルの神髄ともいえる物で、XRが長年支持されてきたのはこのエンジンのお陰じゃないかと思う。以前乗っていた1988年式はジェネレータカバーがマグネシウム製だったと思うんだけど、1992年式にはその様な記載がない。コストダウンなのか不具合の修正なのか経緯は分からない。

 

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エンジン外観(右)。極太の2ポートのエキパイが通る。今となってはただ古臭いデカくて重いエンジンだけどXR600Rはかなりのロングセラーモデルで、またこのエンジンは他車種にも展開されている信頼性が高い定評のあるエンジン。同型エンジンでセル始動とCVキャブで乗りやすくしたXR650Lは、なんと2022年モデルが売ってる!デカくて可動部が多い複雑なシリンダーヘッドだから低速トルクだけかと思いきや、意外に高回転まで回る。スペック的には大した事ないパワーだけど体感的には全然違って、スロットルを不用意に開けると暴力的な加速をする。まるで林道ロケット。ダートはもちろんのこと、例え舗装路でもおいそれと全開には出来ない。

エキパイは2ポート2本出しが途中で1本に集約される形状だけど、88、89、90年式はサイレンサー入口までエキパイが2本のまま独立した形状になっている。他年式と互換性が無いので中古補修部品や社外品を購入する際は注意が必要。

 

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RFVCのシリンダーヘッド。通常はカム山、ロッカーアーム、バルブが一直線上に配置されている。例えば同じ単気筒600ccのヤマハSRX-6だとこんな感じだし、スズキのビッグシングルDR800Sだとこんな感じ。対してRFVCのバルブは変な方向を向いている。

 

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変な方向を向いているバルブを動かす為、ロッカーアームが2重になっている。

 

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何でそんな凝った構造にしているのかというと、燃焼室を綺麗な半球形にする為。お椀を伏せた様な形になっている。バルブ径も燃焼室ギリギリまで拡大している。XR特有のエンジンフィールはこの構造によるところが大きいんじゃないかな。

 

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ヘッドに手動デコンプレバーのワイヤーが繋がる。手動デコンプが有るのに、実はオートデコンプが備わっている(1988年式辺りから)。最初それに気付かず圧縮が抜けているのかと思った。オートデコンプは手軽な反面、圧縮の加減が分からないので整備のタイミングで取り外した

 

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キャブレターはケイヒンの強制開閉式ピストンバルブのPDφ39シングル。初期のXRは2ポートにツインキャブだったけど、後にシングルに変更されている。ツインキャブはレスポンスが俊敏で出力特性も唐突だったらしいけど、シングルキャブでも相当なレスポンスで、何速であろうが何回転であろうが何処からでも加速していく。単気筒エンジンは実用的な回転域がかなり狭い印象だけど、XRの場合は驚くほどワイドに使える。ビッグシングルにシングルキャブなのでスロットル全閉時にキャブのピストンが張り付きやすく、全閉から開け始めは操作がややシビア。

 

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フロント周り。フロントサスペンションはさすがに設計が古くて、ボトムケースがアクスル(軸)より下に飛び出している。林道ツーリング程度なら問題無いけど、ハードなコンディションでは走破性に難有り。ただ、1991年式辺りからカートリッジサスになっているのでダンパー能力は向上している。年式によって外観的にはほとんど変わらないけど、なるべくなら91年式以降の方が良い。91以降は最終まで基本的な所は変更されていない。それでも車体と足回りは設計が新しいXR400Rの方が良くて、バランスと完成度から言えばXR400Rに分がある。

ホイールはオーソドックスな21インチ。エンデューロタイヤからトレールタイヤまで一般的なオフタイヤはほとんど履ける。レーサーだけあってフロントにもビードストッパーが付いてる。

ブレーキはピンスライドの2ポッドキャリパー。硬いブレーキホースが使われているのでタッチは良くて扱いやすい。絶対的な制動能力はさほど高くないものの、車体が軽いのでノーマル状態で乗るなら特に不満は出ない。

 

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リヤ周り。リザーバタンク付きダンパーとリンク式サス、アルミ製スイングアームと、当時のハイパフォーマンスモデルのセオリー通りの構成。モトクロスコースの様な激しいジャンプが有る様なコースでなければ普通に走れる。

91年式以降はリヤもディスクブレーキに変更されている。それ以前はドラムブレーキだけど、リヤハブに放熱フィンが設けて有ったりしてかなり凝った造りだった。ブレーキはピンスライドの1ポッドキャリパー。小さいながらも効きは良い。

ホイールは18インチで、フロント同様タイヤの選定で困る事は無い。

標準のドリブンスプロケットは48T辺りの様だけど、入手時は40Tが付いていた。40TはAFAMのXR用スプロケットでは最も高速寄りのサイズだけど、それでもアクセルを開ければ何処からでも加速していく。タイトなダートでは扱いにくい反面、高速寄りにしてもトルク不足は感じられないので舗装路や走りやすい林道なら40Tは最強。

 

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テール周り。XRの標準は取って付けた様なテールランプが付いてるはずなんだけど、この車両はエンデューロテールになってる。標準状態なのかモディファイなのかは不明。キャリアが無いので荷物が積めずツーリングには不便だけど、キャリアが無い方がスッキリする。後にハンドメイドの簡易的なキャリアを追加している。

 

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サイレンサーはノーマルではなく、OZ-worksのフルパワーサイレンサーが付いてる。軽量かつパワフルでXRのチューンでは定番なサイレンサーで貴重なんだけど、いかんせん音がバカデカい。ディフューザーを作って排気口を絞り音を低減させている。車検の度に騒音測定されるのでノーマルサイレンサーが欲しい。

 

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フロント周り。オーソドックスなオフロード用ライトカウルが付く。レーサーなのでライトはゴムバンドで留まっているだけ。ライトバルブは標準はP15D25-1の35w/36.5w(スクーターと同じ口金)だけど、ノーマルのライトでは光量不足で車検が通らないから厄介

 

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メーターはXLR250等と同じ様な素っ気ないアナログ。表示灯はヘッドライトのハイビームのみで、ウインカーやニュートラルの表示灯は無い。キック始動でニュートラルランプが無いのは信号待ちで気を遣う。

車検時に車幅(ハンドル幅)が車検証通りか計測されるので、ノーマルのスチール製ハンドルは保管してアルミ製に交換した。丁度XR600Rで使っていたというテーパーハンドルがオークションに出ていたので安く買えた。XRのハンドルクランプはトップブリッジと一体になっているから、クランプを交換してテーパーハンドルを付ける事が出来ない。なので、ノーマルのクランプの上にテーパーハンドル用のクランプを重ねる事になる。ノーマルに比べると若干ハンドルバーが高くなるけど、乗った感じ違和感は感じない。

ノーマルのハンドルクランプにキースイッチのブラケットが固定してあったんだけど、テーパーハンドルにしたら付けられなくなった。仮に両面テープで固定しているけど、そのうちちゃんと固定するかも。しないかも。

 

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軒先保管だったらしく、すっかりヤレたガソリンタンク。タンクはポリ製で容量は10リットルらしい。燃費はツーリングレベルで大体20km/L前後だから、航続距離は160km前後になる。ツーリング、特に林道ツーリングにはちょっと心許なくてビッグタンクに換装したけど、結局ノーマルに戻している。ノーマルタンクだと軽くてスリムで移動しやすくホールドもしやすいので積極的なライディングならノーマルの方が良い。

 

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身長177cmの僕が跨るとこんな感じ。車格は250cc並みのコンパクトさ。ナンバーを見なければ250ccと思うだろう。迫力は無い代わりにオフロード走行には適している。

 

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シート高はスペックでは955mm、実測で930mm位。一応両足は着くけど爪先立ち。シートは高いけど車体は細くて軽いので、アドベンチャー系の様な威圧感は無い。ただキックを蹴るのは大変で、急坂でスタックなどしたら最悪。




インプレッション
市街地走行

軽量でハンドル切れ角も大きく、フットワークは軽い。アップライトな乗車姿勢も、不測の事態が起きやすい市街地走行では対応しやすい。バイパスから狭い路地裏まであらゆる状況でもそつなくカバー出来て非常に有能。一般的な速度範囲ならビッグシングルらしいパルス感を感じられて乗っていて楽しい。オフロードバイクだけどかなりのシティランナバウト。始動がキックのみ、シートがベラボーに高い、キャリアが無いとまともに荷物が積めない、タンクキャップにキーロックが無い、というのが難点と言えば難点。メリットが多い市街地走行だけど、タイヤ、ブレーキ、エンジンオイル等の消耗が著しく、メンテナンスサイクルが早いので無駄に走りたくなくなるのはネック。

 

ワインディング

オフロードバイクに乗らない人はピンと来ないかもしれないけど、モタード仕様でなくても相当走る。600ともなれば尚更走る。砂漠を高速で走れるフレームは多少の事ではビクともしないし、フレキシブルでフラットトルクなエンジンは軽量な車体と相まって何処からでも加速していく。さすがに高速コーナーはロードバイクの安定性には敵わないし、フロント21インチはモタード程の軽快性は無いもののコーナーリングでの自由度は非常に高く、先が見えないタイトなコーナーが多い日本のワインディングではかなり扱いやすい。中速以下のコーナーは強烈で、タイトになればなるほど有利になる。スピードもさることながら、このエンジンは乗っていて超楽しい。ついついスロットルを開けたくなる。パーシャルで淡々と走るより、メリハリの有るライディングの方がより楽しい。

 

ダート

車格は250ccクラスと変わらないし、重量も公道用市販車オフロードバイクとほとんど変わらない。それが600ccのトルクで暴力的に加速する。本格的なオフロードバイクエンデューロマシン)と比べると重量を感じるものの、競技レベルで比較しなければ問題無い。フレキシブルで強烈なトルクのエンジンはダートでより一層その真価を発揮して、クラッチ使わなくてもスロットル操作で走れてしまう。大抵のシングルはアイドリング付近からクラッチ使わずにアクセルを開ければガクガクとノッキングしてしまうけど、XRは動いてさえいえればアイドリングからでもノークラッチで何事も無く走っていく。驚くほどのフラットトルクでアクセルを開けなくても走るし、開ければ開けた分だけトルクが出るし、非常に扱いやすくて楽しい。スロットルレスポンスはかなり俊敏なのでオフロードビギナー向けではないのと、キック始動のみ+とても高いシート高でタイトでシビアなコンディションになると再始動に苦労する。

ただ、これらの利点はあくまで走りやすいダートでの話で、狭くて荒れているトライアル的な要素が要求されるテクニカルな状況になると重さと大きさが負担になる。最新のエンデューロマシンはセル始動が当たり前になっているので、ゲロアタックやハードエンデューロには明らかに不利だ。アドベンチャー系よりは遥かに扱いやすいけど、最新エンデューロマシン程の軽快性は無いので、求めるシチュエーションによっては中途半端な印象になる。

XR600Rを本当にオフロードで走らせている人は相当な手練れのはずなので僕が言うまでもないんだけど、いかんせんネットで詳細を解説しているサイトがほとんど無い。

 

高速道路

ドリブン40Tだとかなりスピードが出るけど、かといって高速走行が快適とは言い難い。よく回るエンジンだけど高回転まで回すとかなりの威圧感と振動が有って、長時間高回転を維持するのは苦痛で全く楽しくない。気持ちが良いのは80~100km/h位で、カウルも無いのでリッターバイクと一緒に高速道路は走りたくない。120km/hを超えるとフロントが不安定になる。フロントフェンダーが邪魔になるし、オフ用のタイヤやホイールは高速での安定性に欠ける。高速走行の快適性はツインやマルチには到底及ばないので、高速走行の頻度が高いならお勧めしない。中低速の痛快さと引き換えなので仕方が無いし、中低速の面白さの方が日常的な用途ではより有効なので我慢のしどころ。

 

タンデムツーリング

このXRは乗員2名登録してあってタンデムステップが有るけど、それは法令的に条件を満たしているだけで2名乗車を快適にこなせるという意味じゃない。レスポンスが俊敏で強烈なトルクを発するエンジンと柔らかいサスペンションは挙動変化を激しくさせがちで、タンデムライダーを快適にさせるにはより一層繊細な操作が必要になる。長距離で長時間それを続けるのはしんどい。ソロでは気にならなかったブレーキが、タンデムでは余りにも貧弱に感じて止まらない。ブレーキングでの沈み込みも激しいし、コーナーリングもフロントに余計に荷重が掛かるから不安定になる。サスペンションを締め上げればマシにはなると思うものの、それでは一人で乗る時に支障が出る。タンデムライダー側も、掴み所が無い車体と細くフラットで滑りやすいシートで減速の度に身体がズレてしまう。唯一の利点は「足つきが良くなる」という1点のみだけど、タンデムだと極低速で不安定になるのでその利点も帳消しに等しい。XRに限らず性能重視の本格的なオフロードバイクは総じて快適なタンデムは望めない。XRはオフロードバイクの中では比較的シート幅が広い分だけまだマシかもしれないけど、あくまでも短距離なら出来なくはないというエマージェンシー的な用途でしかなくて、タンデムツーリングが多い人には向かない。そんな人はこんなバイク選ばないだろうけど。

 

総評

元がエンデューロレーサーだけあって、あらゆる場所、あらゆる状況下で、ある一定レベル以上の快適性とスピードを維持出来る。市街地から高速道路、林道まで、雨が降ろうが泥んこになろうが気にせずに走れるし、どんなシチュエーションでも楽しい。これはある意味究極のカブだ。

XR600Rの一番の面白さは、その特徴的なエンジンだと思う。RFVCエンジンは近代的なエンジン設計からするとかなり大きくて重たいけれど、その代わりに強烈なパンチ(トルク感)を放つ。今なら450ccの方が遥かに軽量でパワフルだけど、XRの空冷エンジンは元々エンデューロマシンとして造られているのでモトクロッサーほど神経質ではなく心地良く感じる。所詮は単気筒なのでツインやマルチに比べると酷い振動だけどその鼓動感は単気筒エンジンの中でもズバ抜けていて、ヤマハMT-01やSRX-6、スズキDR-BIG等と比べてもドコドコ感はハンパ無い。トルク感とパルス感は、良い意味でいかにも単気筒エンジンという印象。それは車体の軽さと相まって、低回転だろうが何速だろうが何処からでも加速していく非常にフラットで楽しいエンジン。僕がビッグシングル面白れー!って思ったきっかけはXRだし、だからXRはシングルスマイルの根源と言っても良い。一度手放して、その後他のビッグシングルにも乗ってみたけど、だからこそ改めてXRのエンジンは素晴らしいと思った。

もう1つ良い点は、非常に原始的(簡素)だという点。僕が今まで乗ったバイクの中で最も衝撃的だったのはファンティック247だった。排気デバイスすら持たない単純な200ccの2stエンジンなのに、まともに乗れなかった。限定解除とかビッグオフを乗ってきた経験とか全く意味をなさなくて、それはただ路面状況とバイクの性能に助けられていただけに過ぎない。シンプルに操作を突き詰めていくトライアルバイクは誤魔化しが効かなくて、自分の操作の粗がハッキリと分かってしまう。XR600Rはトライアルバイクとは違うけれど、あの時のファンティックに通じる物がある。電気的な補助デバイスを全く持たないXRはライダーを助けてくれないし、下手くそな操作は拒絶する。だけど、ライダーがきちんと操作すればきちんと応えてくれる。エンデューロマシンは過酷な路面状況の中長時間乗り続けなければいけないから、モトクロッサーやトライアルバイク程のスパルタンさではない。それでも公道用市販車に比べたら遥かにスパルタンなフィールを持っている。ある程度バイクに慣れているライダーにとっては、ベストなバランスだと思う。更に、修理、メンテ、長期間維持していく上では極力簡素な方が都合が良い。

こういう極めて原始的なバイクは今後国産車では出てこないだろうから、乗るのも所有するのも非常に貴重な体験になっていくと思う。随分古くなって玉数が少なくなったのと、中古車が出てきても高額になりがちだから今後入手するのは難しくなるだろうけど、機会が有れば乗ってみると良い。オフロードバイクとか、シングルエンジンという概念を覆してくれるはずだから。

 

追記(2023.05.05)

ヤマハWR250Rに試乗する機会が有ったので、WRに対する印象とXRとの比較を書いておく。詳細な比較、評価が出来るほどの技量と経験、知識は無いので単に素人の備忘録的感想。WR250Rは現時点では国産車の公道用オフロードバイクのトップレベルに位置するモデルなはずなので、比較と参考にするには良い車両だ。

WR250Rは見た目の印象ほど軽くない。意外に重さを感じる。そして、見た目の印象より遥かに扱いやすい。もっとパンチが効いた俊敏なレスポンスをイメージしていたけど、非常にマイルドなフィール。これは公道モデルとして万人向けのセッティングだからだろう。なのでツーリングレベルならともかく、この車両で本格的にオフを走ろうとする人にはノーマルでは少々物足りなさを感じるかもしれない。

以前乗っていたホンダCRM250もノーマルは非常にもっさりしたレスポンスだった。エンデューロでのトラクション重視なセッティングという事らしいけど、アクセルに対する反応がワンテンポ遅れる。それが無限のECUに交換したらモトクロッサー並みの俊敏なレスポンスに激変した。古いキャブレターの2Stですらそうなのだから、WRも排気系と燃調(インジェクションなのでECU)を変えれば激変しそうだ。燃調を触らなくてもノーマルで充分速く走れるとは思う。ただ、荒れて難しい状況になると積極的なアクションが必要になってくるので、そういう場面ではマイルド過ぎる。逆にビギナーライダーの場合はレスポンスが俊敏過ぎると暴走する(身体が振られた時にアクセルを捻ってしまう)ので、ノーマルのマイルドさが有効だと思う。

現代的なフレームと足回りだけど、かなり硬めらしい。林道を少し走った程度では僕にはあまり感じなかった。セッティングはまだ煮詰められていない状態だったけど、これだけ扱いやすくてしっかりしていると足回りと吸排気系をリセッティングしたWR250Rに対してXR600Rでは太刀打ちできないだろう。ただ、WRに乗ってみて改めてXRはとても面白いと思った。図太いトルクと弾けるパルス感、俊敏なレスポンスは、公道用ではないXRならではだ。面白さで言えば未だに充分面白い。レースに使うならともかく、林道を楽しく走るならXRは未だに一線級だ。KTMハスクバーナの様な海外のエンデューロマシンはまた一味違うと思うけど、さすがに高額過ぎて周りで乗っている人が居ないので比較できない。

最新のハイパフォーマンスマシンと比較してそれでもレトロマシンの方が面白いってのは誇張とか愛車贔屓ではない。エンデューロレースに使う(単純に速さを求める)なら、極力高性能で最新のモデルを選択する。かつてCRMを選択した様に。でも所詮趣味の乗り物だ。趣味だからこそどうしようもなく面倒臭くてとてつもなく変態的で尖ったマシンの方が面白いと思う。

追記ここまで

 



キック始動について

きちんと整備された車両なら始動性は良い。

手順は、

1 スロットルを開けてデコンプレバーを握り、5回ほど空キックする

2 チョークレバーを引く

3 デコンプレバーを離し、キックをゆっくり踏み下ろす

4 「カチッ」という音がしたらキックを踏むのをやめる

5 デコンプレバーを軽く握り、少しだけキックを踏み下ろす

6 デコンプレバーを離し、キックを一番上まで戻す

7 デコンプレバーを離した状態でキックを最後まで踏み下ろす

8 掛からない時は3から繰り返し

1の空キックは、アクセルを開けて始動に必要なガソリンを送り込むのが目的なのか、はたまたエアパージしてシリンダー内のコンディションを整える事が目的なのか。純正のキャブには加速ポンプが付いていないので、スロットルを捻るだけではガソリンは出ない。これに関してはもう少し検証してみる。

4の「カチッ」という音はオートデコンプの作動音。そこが圧縮上死点になる。構造は違うけど原理的にはSRX-6と同じで、音も良く似ている。オートデコンプが働いているといつまでたってもキックが下りてしまって圧縮上死点が分かりにくいので、音で判断した方が分かりやすい。

5の少しキックを踏み下ろす、というのは、カム山が圧縮上死点を乗り越えるタイミング。本来はオートデコンプが働いた時点で圧縮上死点を越えているはずだけど、さらにもう一度「コクン」と乗り越える感じがする。この手順を省いても始動するかもしれないけど、個人的な印象ではこの「コクン」の後からキックした方が掛かりやすい気がする。

7のキックを踏み下ろす時は、踏み下ろす速さやパワーもさることながらキックアームがストッパーに当たるまでフルストロークさせる事が大事。力むとフルストロークしない場合があるので、リラックスして最後まで踏み下ろす。

手順通りやっても、きちんと整備された調子の良い車両でないととんでもなく苦労する。ちゃんと整備されて、ちゃんとセッティングされている車両ならキック始動も(さほど)苦労しない。とは言うものの「キックなんて苦労しない」って言うのは大抵は「キック始動出来る自分凄い」的な意味合いで言われているだけなので、面倒くさい事に変わりはないから話半分で聞かないといけない。完調でないキック始動のバイクはほんとに地獄だし、更にキック始動に慣れていなければそれだけでもうやめたくなるはず。

 

 

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