シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

僕は結局乗りにくくて変な車にしか興味が無い

 

 

 

セルフスタンドでくたびれた軽自動車にガソリンを入れようとしたら、隣のレーンで国産高級車のSUVが給油していた。ピカピカのその車を見て、僕は自分でも不思議なくらいピクリともしなかった。もちろん我が家の経済事情で購入する事が出来る車じゃない。けど、あらゆる出費を削って残価設定リースでむりやりローンを組めば乗れない事もない。でも、そこまでして乗って満足出来るかというと、僕には到底そうは思えなかった。その時に、僕の趣味嗜好は世間から相当外れているんだという事を今更ながら改めて思った。

ずっと3ペダルのMT(クラッチペダルが有るマニュアル車)を運転してきて、時々家族用の普通のトルコン式ATを運転しながら、僕は最近までDCT(デュアルクラッチトランスミッション)をマニュアルモードで運転する事が一番理想的だと思っていた。DCTはメーカーによって名称が異なる変速機構だけど、ポルシェやフェラーリ、日産GT-Rなどのハイパーなスポーツカーから、欧州では一般的な乗用車までよく使われている。変速がスムーズで速く、ロスが無い。クラッチを踏んで変速するMTよりも速くて効率が良い理想的なトランスミッションだ。

昨年我が家のメインカーになったフォード・フィエスタもDCTで、運転してみると驚くほどスムーズだ。しかもクリープ(ブレーキを離すと微速前進する)まで再現していて、余程車に詳しくない人でなければ一般的なトルコン式ATと見分けがつかないだろう。パワフルなエンジンと相まって、普通に運転していても滑らかで全く違和感がない。

対して昨年末から僕が乗り始めたsmartのミッションは、これまた驚くほどの出来損ないだ。15年前の機械だから仕方がないけど、smartはDCTではなくシングルクラッチ(基本的に普通の3ペダル式MTの構造)だからシフトチェンジする時にかなりタイムラグがあって、僕が普通にMTで変速するよりももっと大幅に時間が掛かる。更にクラッチを切って繋ぐタイミングは自動だから、そのタイミングを見計らって自分でアクセルコントロールをしなきゃならない(しなくても良いけど変速ショックがかなり酷い)。

完成度から言えば圧倒的にフォード・フィエスタだ。日本では全くのマイナーで余程の変人しか乗ってない車だけど欧州ではトップセースルを競っていた車だから、その基本性能は非常に高い。だけど、僕が当初思っていた「DCTをマニュアル操作する事が一番理想的」だという考えは、今ちょっと変わってきている。というのも、余りにも良く出来ているからマニュアルモードで運転する必要性を感じないんだ。ドライバーが何もしなくてもアクセルを踏めばスムーズに鋭く途切れることなく加速するし、ブレーキを踏めば減速する。ワインディングを激しく走った事が無いからフルブレーキングからの立ち上がり具合とかATの粗が出る様な事はやっていないけど、フィエスタなら僕が運転する3ペダルのMTよりもスムーズに速く加速していくかもしれない。だから、マニュアルモードを使う意味がないし、使おうという気が起こらない。それはそれである意味「理想的」ではあるのかもしれないんだけど。

それではフォード・フィエスタとsmartとどちらが面白いか、どちらを運転したいか、と考えたら、僕はsmartを選択する。smartも外観は変態的だけど車体はかなり真面目に作られていて、古いけど走行性能は国産コンパクトカーと比べても遜色がない。ミッションがクソなだけだ。ただそのお陰でドライバーが積極的に運転操作に関わる機会を提供している。信号待ちからの加速、交差点の右左折、日常の何気ない運転の中でこれ程考えさせられる車には乗った事が無い。クソな車バンザイ。

それは多分僕が天邪鬼な人間だからなんだろう。街行く車を見ても、今の時代MTが良いとか出来損ないのセミオートマが面白いとか言う人は極々少数なはずだ。少なくとも僕の周りには居ないし、家族にも理解されない。それでも多分僕はこれから先、自分が乗る車ではATは選ばないだろう。DCTも、CVTも普通のトルコンATも選ばない。3ペダルMTから離れて、改めて思った。豪華な車とか、ハイパワーな車とか、便利な車とか、そういう物ではなく、運転する事が面白くて、運転する事により深く積極的に介入出来る物が良い。つまり、乗りにくくて操作が煩雑で面倒臭いクソな車ほど運転が楽しいって事を。