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目指すのはジャンガリアンな生き様

 八日目の蝉

書店で見かけて気になった単行本が幾つか有ったのですが、市の図書館に有ったので借りて読んでみました。他にも気になる作家の知らない単行本が幾つか見つかって、当分お金を使わずに読書を堪能できそうです。

八日目の蝉

八日目の蝉

★★★★★

あらすじ
ふとした事から、不倫相手の赤ちゃんを奪って育てようとする女。

レビュー
不倫相手の子供を奪って育ててしまう、という一見するととっぴもない話だけど、すごく良く出来ていてノンフィクションかと思うほどしっかり書かれています。この先どうなってしまうのか、読み出すと目が離せなくなります。他人の子供を奪うのは良くない事だけど、そういう表面的な事だけじゃなくて色々考えさせられる話。

例えば、予防接種、健康診断、教育や育児用品の充実等、今は子供を育てる事がかなり安心で快適な状況になっていると思うのだけれど(昔に比べたら、で子供を育てる事は大変な事に変わりないし、今は昔とは違った不安材料が増えているけれど)、それは「普通」の生活環境の人が得られる物であって、「普通」から少しでも外れてしまうとその恩恵を受ける事ができず相当な苦労をしなければいけない。そんな事今まで考えてもみなかったけど、それでも子供を守りたい。子供との生活を守りたい。その為ならお金など惜しくない。そういう心情が痛いほど分かる。
本来の両親の不甲斐ない態度とギクシャクした生活も、分かる気がします。望まれて生まれてきた訳ではない子供に限らず、望んで生んだにも関わらず子供に愛情を注がない親というのも確かに居るし、そもそもが育児に向いていない大人も大勢居ます。そうすると、何をもって子供の幸せとするのか、お金が有って恵まれた環境が整っている事が幸せなのか、両親が揃っている事が幸せなのか、片親で子供と共に過ごす時間が少なくても目一杯の愛情を注がれる事が幸せなのか。
希和子が薫と引き離される時に叫んだ言葉を読んで、涙がこぼれそうでした。親の愛情ってそういうものだと思う。
久しぶりに★5つの凄く良く出来た小説。ただ、実際に親の立場になった人じゃないと読んでも面白くないかも。