シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

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知り合いにSさんというオジサンが居る。僕にバイクの「いろは」を教えてくれた人だ。ライディングに関する事からメンテナスに関する事、バイクに対するスタンスに価値観、Sさんから受けた影響は計り知れない。はたから見れば世間から外れた怪しいおっさんだけど、バイクに関しては絶大な信頼を置いていた。Sさんと出会わなければ、「バイクなんかこんなモノか」と訳知り顔でとうにバイクなどやめていたかもしれない。

いつもSさんは大した距離は走っていなかった。長距離ツーリングに適したバイクではなかった事や、楽しく走れるルートが無くなった事も要因ではあるけど、年に2、3回ツーリングに行くかな?程度だった。それがここ最近毎週の様に走っている。新しく手に入れたヤマハのMT-01がいたく気に入ったらしい。頻繁に走りに行く事も驚きだけど、MT-01という選択も驚きだった。Sさんはもっと尖がったバイクが好みで、かつてのSさんならMT-01などボロクソに言ってたんじゃないかと思う。

Sさんももう歳だしな。流して楽しいバイクの方が良いのかもな。って思っていたら、今度は「CBR600RRが欲しい!」と言い出した。カリカリのレーサーレプリカマシンだ。峠以外ではまるで楽しくないバイクじゃないか。なぜまたそんなモノを、と思ったら、最近よく一緒に走りに行くオッサンに追いつけないからだと言う。ホンダのCB1300で峠道をガンガン走るらしい。そのオッサンにギャフンと言わせるためにCBRが欲しいと言う。

馬鹿な事を。もう60過ぎの爺さんなのに、まるで子供じゃないか。週末の日中のワインディングなど、危なくて走れたもんじゃないのに。いつ飛んじゃうか分かったもんじゃない。一歩間違えば死んじゃうし、死なないにしてもその歳で怪我すれば完治するかどうかも怪しい。だけど、SさんもCBのオッサンも意に介さない。

ヤバい話だよ。迂闊に踏み込むと人生を棒に振るよ。まともな大人なら、家庭でも仕事でも責任を負う様な人は、そんな事やってはいけない。だけど、抗い難い衝動に駆られる。SRXに火を入れるのは、今なんじゃないのか?

最後に本気で走らせたのは、いつだったっけ? そもそも、スクーターやハーレーが流行りの今、本気のライディングを見る機会が無い。バイクに乗る人は多い。でも、本気で速く走らせる事が出来る人は少ない。余りにも危険で無謀だからだ。リッターバイクに対抗するには、40馬力しか無い600ccの単気筒ではあまりにも非力だ。だけど、相手がレーサーレプリカではなくて、ステージがパワーを使いきれない中低速の峠道なら、あるいは互角になるかもしれない。それでも吸排気系も足回りもイジった1300だから、SRXも出来る限りの事をやらなければついていけないだろう。まったく馬鹿な考えだよ。

 バイクをやめた訳じゃない。だけど、そう言いつついつの間にか霞んでいやしないか。十代のトキメキは今でも胸の奥に残っているのか。心に渇望は有るのか。僕も40半ばを過ぎ人生の終末も視野に入った今、本気を出さなきゃいけないんじゃないのか。「今は本気を出していないだけ」と言いつつ年老いてしぼんでいって良いのか。

冷静に理論的に考えたら、本気を出すべきものじゃないんだ。理論的に考えたら破綻してしまう。バイクなど、理屈で乗る様なものじゃない。だけど、本気を出さない物事は所詮つまらない。ギャフンと言うのか、言わされるのか、どちらにしても面白そうだ。