シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

HONDA XR600R オートデコンプをキャンセルする

 

 

気温が低くなると始動性が著しく悪くなる。点火系の不調を疑って色々やってみたけど解決しない。シリンダーヘッドのオーバーホールをするついでに、オートデコンプをキャンセルしてみる。

今までの経緯、XR600R関連の記事はこちら

singlesmile.hatenadiary.jp

 

 

XR600Rも1988年式あたりからオートデコンプを装備する様になった。カムシャフトに組み込まれた機構によって、始動の際自動的に圧抜きを行う仕組み(下記参照)。単気筒かつキック始動のエンジンでなければ、特に深く理解しなくても困らない。

www.honda.co.jp

 

いちいちデコンプレバーで操作しなくても良いのでお手軽な反面、圧縮上死点が分かり難い。また、昔乗っていた1988年式のXR600R(手動デコンプのみ)は始動性が抜群に良かったので、このXRの始動性が悪いのはオートデコンプの影響も少なからず有るんじゃないかと疑っている。ヘッドを分解したついでにオートデコンプをキャンセル(機能しない様に)したい。

vital.sakura.ne.jp上記記事の様にカムシャフトに組み込まれたオートデコンプに関する機構を全て取り外してしまえば良いんだけど、1つ問題がある。カムシャフトのオイルラインは、このオートデコンプユニットにも通じている。上記記事でもオートデコンプ用のオイルラインを溶接で塞いでいるけど、塞がずにオートデコンプだけ外してしまうとそこからオイルが抜けてしまってカムシャフト周辺の油圧が下がり、カムシャフト付近の潤滑が不十分になる恐れが有る。それと、オートデコンプが無くなった分、カムスプロケットホルダが左右に遊んでしまわないか?という心配も。

 

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なので、カムシャフト側は触らずにロッカーアーム側を加工してオートデコンプをキャンセルする。画像の赤丸が、カムシャフトのオートデコンプと当たる部分。このタブ(出っ張り)を切除してしまえばオートデコンプが効かなくなるはず。ちなみにオートデコンプをキャンセルしても手動デコンプは機能するので、始動困難になる事は無い(画像赤矢印部分)。

 

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一旦ロッカーアームを外し、オートデコンプ用のタブを切除して戻す。

 

 

組立して確認したら、オートデコンプがキャンセルされていない。ホンダのサイトで動作原理をもう一度よく確認すると、切除したロッカーアームのタブは「逆転デコンプ」用で、始動時のデコンプでは使用されない部分だった。始動時のオートデコンプはロッカーアームのスリッパー(カム山との接触部)にダイレクトに作用するので、オートデコンプをキャンセルするには参照記事の通りカムシャフトに組み込まれたオートデコンプのユニットそのものを取り外さないといけなかった。

 

 

 

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せっかく組んだエンジンを再び分解する。ただ、目的はカムシャフトなのでヘッドカバーさえ開ければ良い。

 

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カムシャフトを取り外し、カムスプロケットホルダーを外す。圧入されていてなかなか抜けない。カムスプロケットホルダーが変形してしまうんじゃないかと心配になるけど、正規の分解手順もプレスで抜く(カムスプロケットホルダーで支持する)から多分大丈夫だろう。なるべく強度が高そうなボルト穴が有る厚肉部分にプーリー抜きを掛ける。

 

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想像以上に固い。なんとかバラせた。バラせたのは良いけど、こんなに嵌め合いが固くて組めるのか?

 

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オートデコンプのワンウェイクラッチ部分に有るオイル穴を溶接で埋める。オイル穴が開放されてしまうと油圧が低下して、カム山やジャーナルに送られるオイルが減少してしまって潤滑不足になりかねない。

 

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オートデコンプの正転デコンプカムの部分にピンが有る。圧入されていてペンチで掴んだ位では抜けないけど、万一走行中に抜けると厄介なので溶接してしまう。

当初オートデコンプのカムを外してしまうとカムスプロケットホルダー(画像の円盤状の物)が軸方向に遊んでしまうんじゃないかと思ったんだけど、カムシャフトが段付になっているので位置決めされるし、かなりシビアな嵌め合い精度なので動かない。

精密なカムシャフトをガンガン叩きたくなかったので、組み立てる際は車屋さんに圧入用の油圧ジャッキを借りた。

 

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上記サイトには記載されていないけど、シリンダーヘッドに付いているプランジャーとスプリングも外しておく(赤矢印)。多分正転デコンプカムに作用する物じゃないかと思うけど、デコンプカムが無くなったので飛び出してしまう。

 

 

 

組立後にキックしてみると、今度はオートデコンプは作用しなくなった。でも圧縮上死点でもキックが下りる。踏み応えはあるものの、踏んでもキックアームが下りないほどの踏み応えでもない。どうせエンジンバラすなら、シリンダーやピストンまで確認しておくべきだった。

懸念していた低温時に極度に始動性が悪くなる、という症状も改善されていない。オートデコンプが原因ではない様だ。苦労して作業した割には釈然としないけど、キックによる圧縮漏れの確認が出来るというのは整備する際には有難い。オートデコンプが機能していると、圧縮が有るのがどうかが分からないから。