シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

裏路地にて

 

 

車で通勤する際、会社の手前で大きな幹線道路に出なければならない。空いている時は良いんだけど、朝や夕方の幹線道路は混雑して流れが悪く、また朝夕でなくても時折予期せず渋滞したりするので到着時間が読めない。とはいえ裏道を行こうにも会社近辺は道路が入り組んでいて、細い路地だったり曲がりくねってあらぬ方向へ向かったりと、地元じゃない人には優しくない仕様。それでも工事の影響で渋滞が予測される、と言われていたのでGoogleマップとにらめっこしながら裏道を考えていた。何度も右左折しなければならず、なかなか難しい。

幹線道路を回避する裏道での通勤も何とか目途がたって、多少遠回りする形になるものの目立った混雑は無くて到着時間も読める様になった。細い裏路地は運転に気を遣うけど、渋滞した幹線道路の様に殺気立っていないのは良い。

 

裏路地のアパートを想像するのが好きだった。綺麗なマンションとか、立派な戸建てとかではなく、小さくて古い庶民的なアパート。その昔、韓国に旅行に行った時(社員旅行で未だかつて唯一の海外旅行)、ホテルの窓から朝の路地裏を眺めながら、何となくここでも生活していける様な気がした。それを彼女に話したら「私を置いて韓国で暮らすのか?」と怒られたんだけど、実際にそこで生活する事を想定している訳では無く、そこでの暮らしに思いを馳せているだけなんだけど、その心情や感覚を正確に言い表すのはとても難しい。

それが何故なのかは自分でも分からない。実際に生活するならゴミゴミしていない田舎の戸建ての方が性に合っている(家族は嫌がるだろうけど)けど、想像するのは決まって裏路地の狭い安アパートだ。地元で進学し、地元で就職して結婚し、地元から遠く離れて生活する事が無かったから何らかの憧れみたいなものなのかもしれない。結婚当初は数年安いアパートで生活していた。狭くて不便で金も無かったけど楽しかった。僕は生活もミニマムなのが好きなのかもしれない。

小さなアパートから見える景色はどんな感じなんだろう。通勤の為に最寄り駅まで歩くんだろうか。買い物は近所のスーパーで、川沿いの散歩道なんか有ったら良いな。そんな事を想像してみたりする。願望という訳じゃない。現状に特に不満が有る訳では無いから。ドラマや映画を観て、小説を読んで物語に感情移入する様に、でもそんなフィクションほどドラマティックではなくありきたりで平凡な生活で、でももっとリアルな感じ。部屋の数だけ生活が有り、人の数だけ人生が有る、そういう当たり前の事を思ってみたりする。

裏路地を走りながら、そんな事を考えている。ただ、住宅街で戸建てが多く、僕が好きな安アパートが少ないのが少し残念だ。