自らの性に疑問を抱く里帆、女であることに固執する椿、生身の男性と接しても実感を持てない千佳子。三人の交差する性はどこへ向かうのか。
★★★☆☆
レビュー
著者の作品は人間の内面というか奥底の闇の部分をえぐる様なものが有って興味深いんだけど、本書もまた人の内面を露わにする。
3人の女性を登場させて性的マイノリティを描いている。今時なテーマだなと思うものの、LGBTとか同性愛者とかそういう枠組みにとらわれないグレーな部分を丁寧に描いている。なのでこのテーマありきで書きました、という様なフィクション感だとか、LGBTってこんな感じだよねといったマジョリティ側からの想像で描く押しつけがましさは感じられない。また、性格が全く異なる3人を違和感なく書き分けていて、それぞれの言動がちゃんとそれぞれの個人となっているのでとても読みやすい。登場人物の書き分けは作者の思考や意向が透けて見えると興醒めしてしまうから。
女性の性に関する内容ではあるけど、そこにロマンチシズムとかエロチシズムは感じられない。むしろ苦悩とか嫌悪感とかそういうネガティブな側面を女性視点で描いていて痛々しい。エロと言うよりは何だか哲学的とも思えるけど、マイノリティ視点ではあるけど女性視点からだとこんな風に見えるかもしれない、という気付きはとても興味深い。
1つだけ残念なのは、知佳子の恋人伊勢崎だ。いくら気が利いて察しが良いといってもまさか知佳子のセックスの相手が**だとは思わないだろう。良い人だったのに不憫でならない。