シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

消滅世界 村田沙耶香

 

 

 

 

人工授精で、子供を産むことが常識となった世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、やがて世界から「セックス」も「家族」も消えていく・・・

★★★☆☆

 

 

レビュー

解説の通り、妊娠は人工授精が当たり前になり夫婦間での性行為は近親相姦とされる近未来が舞台。完全に管理される妊娠~育児は果たして楽園と呼べるのか。

相変わらず「セックス」というタブーに切り込んでくる。でもそこにエロティシズムは感じられない。むしろヤバさを感じて以前読んだ「地球星人」を彷彿させる。地球星人はかなりヤバかったけど、それに比べると洗練はされている。

妊娠しにくくなり、少子化が進み、2次元に癒しを求める、というのは現代の延長線の様で既視感が有る。ではその先の世界はどうなるのか?性行為は不要なものとなるのか、また性行為の相手は恋愛対象者であるべきなのか。今時なテーマではあるけど話が冗長な印象なのと、結末が何となく中途半端な印象だったので個人的にはそこまで高評価じゃない。まぁ結末で、あれ?そっちに行っちゃう?と思わせる点では意外性が有って良かった。

 

僕は昭和の人間なので世の中がここまで劇的に変化するとは想像出来なかった。だけど、セックスに関しては相変わらずタブーでグレーな存在だ。これだけ高度に情報化された世界なのに、セックスに限っては相変わらず隠匿されたままだ。

それは分からなくもない面もある。あまりにも難解だからだ。性欲は個人差が有るし年齢や環境によっても変化し、身体的な個人差もある。しかも性癖は人それぞれ異なるとなると、もうセオリーというものが存在しない。例えばギターやピアノを弾くのは難しくて一朝一夕では出来ない。バイクに上手く乗るのもそう。だけどそれらには一応セオリーというものがあって、それに則って行えば習熟に時間が掛かるとしても誰でもある程度は上手くいく。しかも音楽教室とかライディングスクールとか、上達をサポートしてくれる教室も存在する。

セックスも一応セオリーの様なものは有るだろうけど、それで達成できるのは精々満足度60パーセント程度じゃないか。そこから先は、お互いに摺り合わせを行いながらトライアンドエラーを繰り返しで精度を高めていく必要がある。しかも体調やメンタルなどの影響で日によって変わるし、相手が変わると全く変わる。そして向上しようとするとモチベーションを維持し続けなければいけない。そりゃコスパとタイパを重視する現代にはそぐわない行為だろう。そもそもが、お互いの同意が確認されなければ犯罪となる世の中なので、迂闊に行為におよぶ事が出来ない。「同意」というのは文字にすると極当たり前だけど、こと性行為に関しては雰囲気とかニュアンスとか、その前後の空気感も有ると思うので事前に「セックスしても良いですか」と確実に確認しなければいけないというのもなかなか難しい世の中だ。まぁ空気読めない人も多いから、それはそれで良いのかもしれないのだけれど。

完成度を上げるにはクソ面倒で手間が掛かる事を地道にこなさなければならない、というのはもはやアスリートとかアーティストの領域と同じじゃないかと思える。かといって、世の中から無くなりはしないだろう。性欲は本能であるという事もあるけれどそれだけではない。今は面倒で流行らないとしても、そういうクソ面倒で手間が掛かる事に価値を見出す人は必ず居るからだ。自分一人では出来ない、とても面倒で手間が掛かる、という行為は、それはそれでとても価値があるんじゃないかと思う。