シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

二重生活 小池真理子

 

 

 

 

大学院生の珠は、ある思いつきから近所に住む男性・石坂を尾行、不倫現場を目撃する。他人の秘密に魅了された珠は観察を繰り返すが、尾行は徐々に珠自身と恋人の関係にも影響を及ぼしてゆき・・・。

★★★★☆

 

 

YouTubeをだらだらと眺めていたら、お勧め動画に本書の映画化プロモーションビデオが出てきた。


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面白そうなストーリー。リリーフランキーが出演する映画は、派手さは無いものの味わい深い印象も有って興味をそそられる。原作が有るのか調べて見ると、小池真理子の二重生活だった。

フランスの芸術家にならい「文学的・哲学的尾行」と称し無作為に抽出した人を尾行して観察する、という突拍子もない話ながら、その影響で主人公自らの生活の足元も揺らいでいく。ありきたりな生活の一部を描き、誰かが殺される訳でも無く、禍々しい怨恨が描かれる訳でも無く、淡々と日常が描写されるのに、この先どうなっていくのかが分からない。やらなくても何ら問題の無い尾行なのに、ヒリヒリとするスリルがある。

文学的・哲学的、とあらわされているものの、尾行対象者の選定の仕方や感情や想像・妄想を排除し確認された事実のみを記録していく様式はどちらかというと科学的で実験記録の様。そうやってノイズをなるべく含まない記録の取り方は興味深い。

当たり前で普通だと思っていた生活が、少し見方を変えると実は普通では無かった、という様な綻びを生じさせる事はまま有る事。尾行対象者の行く末はどうなるのか、尾行する主人公の生活はどうなっていくのか、そもそも映画のプロモーションビデオでは尾行がバレてるよね?それでどうなるの? サスペンスでもミステリーでも無く何気ない日常の場面を切り取りながら、先が読めずに展開が気になるのは面白いって事なんだろう。

そんな結末は本書を読むか映画を観て下さい。