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目指すのはジャンガリアンな生き様

ドラゴンの塔 ナオミ・ノヴィク著/那波かおり訳

 

 

 

 

東欧のとある谷間の村には、奇妙な風習があった。100年以上生きていると言われる魔法使い「ドラゴン」によって、10年に一度、17歳になる娘が一人選ばれる。その娘は、谷はずれの塔に連れていかれ、ドラゴンとともに暮らさなければならない。10年経って塔から出てきた娘は、まるで別人のようになり、村に戻ってくることはないという。
アグニシュカは17歳。そして今年はドラゴンがやってくる年。平凡でなんの取り柄もない自分が選ばれることはない、と思っていた。しかし、ドラゴンに指名されたのは、アグニシュカだった。

 

<ドラゴン>とアグニシュカたちは、計り知れない犠牲を払い、長いあいだ〈森〉に囚われていた王妃を奪還した。だが、王妃はまるで人形のように何も反応しない。
〈森〉の侵入を食い止めるため奮闘するドラゴンを残し、アグニシュカは援軍を請いに、国王の住まう都に向かう。しかし、待ち受けていたのは、彼女の「能力」を認めようとしない魔法使いたちと、〈森〉の恐るべき罠だった。

★★★★★

 

レビュー

本書に関しても著者に関しても何の予備知識も無く単にタイトルが面白そうだったからという理由で手に取ったんだけど、秀逸なファンタジー小説だった。

まず、冴えないモブであるはずの村娘が実は・・・という展開はベタなシンデレラストーリーだろ、しかも<ドラゴン>と呼ばれる齢100を超える魔法使いが端正な青年の姿をしているというのも「あぁはいはいロマンスに仕立てたかったのね」と思わせるのだけれど、その実細かい背景設定と緻密なプロットで成り立っている。17歳の少女が主人公だし児童書なのか?とか、村娘が秘められた魔力で無双するって転生しないだけの異世界モノじゃないかとか、なんか「ハウルの動く城」っぽいなとか思っていたけど全く違う。

10年に一度17歳の娘を連れていくのにも理由が有り、<ドラゴン>とアグニシュカの反りが合わないというのも単なるツンデレではなくちゃんと理由がある。都では実力よりも立ち振る舞いや政治的な力の方が有効であるとか、人の猜疑心は簡単には覆せないとか、ファンタジー小説でありながら実に現実的に描写されていて説得力がある。プロットの緻密さは、著者のルーツがポーランドで地方民話に馴染みが有ったり、経歴としてPRGの開発にも携わっていた様なので、その辺りの経験も生かされているのかもしれない。

王国や周辺の集落が対峙する「森」という存在も、当初は単なる邪悪な物、人に害をなす物というでしかなくて「あぁ薄っぺらいなぁ」と思っていたら下巻になって伏線が回収されていく。何故「森」が出来たのか、何故「森」は人を襲うのか、が明かされていく終盤は圧巻だ。こんな展開どうやって収拾させるんだろう?と目が離せなくなる。

唯一<ドラゴン>が端正な青年である必要性を感じないのが気になる点ではあるけど、うら若き女性主人公に対し周りが爺さん婆さんばかりでは華が無いだろう。<ドラゴン>とアグニシュカがどういう結末を迎えるのかまで、本当に結末まで目が離せない。