納車までしばらく掛かりそうなのでその間にトゥインゴのネガティブな項目について考えてみる。ルノー・トゥインゴは既に生産終了車種になるけれど、中古車の価格は比較的高止まりしているので一定の需要は有る様。マニア向けな車に分類されるだろうから購入を検討している、情報を探している人もマニアだと思うけど、一応主観的な意見を書いておく。
ネット上の評価は概ね好評ではあるものの、突出して2点だけネガな意見が目に付く。
1) 遅い
2) フットレストが無い
この2点について、僕なりの私見。対象はトゥインゴの3世代目、1000ccNAエンジンのMT車について。短時間の試乗で感じた事だけど、恐らく長時間乗っても大きく外れないと思う。なお、個人のブログ記事なので当然主観丸出しで客観性は無い。
1)遅い
999ccのNAエンジンなんだから、いくら車体が軽いといっても客観的に見れば遅いに決まっている。が、どのインプレも「何と比較して」遅いのかが明確に書かれていない。同じトゥインゴの900ccターボと比べれば、そんなのは比べるまでもない。
トゥインゴ ゼン のエンジンスペックは
直列3気筒 DOHC12バルブ 999cc
71ps/6000rpm 9.3kgm/2850rpm
になる。3000回転以下で最大トルクを発生するのはかなり低速重視なエンジンだけど、元々が大したトルクではないので回転を上げなければ充分な加速はしない。アクセルに対してリニアな反応を望むなら4000回転以上は回さないといけないんじゃないかと思う。かといって高回転型エンジンでもないので美味しい所は大体4~5000回転辺りだろう。
ところが、トゥインゴにはタコメーターがついていない。以前乗っていた日産マーチ(AK12/前期型)もMT車なのにタコメーターがついておらず、実は3000回転程度しか回していなかった、という経験がある。3000回転程度だとシフトチェンジの際に回転が落ちてトルクの低い回転域に入ってしまってしっかり加速できない。今時のエンジンは低回転で効率を上げる設計なので、そういう燃費型エンジンの感覚に慣れているとトルクがスカスカに感じるだろうし高回転までしっかり回す事が出来ないかもしれない。
ただ、素人のレビューならともかく、自動車関係メディアの評価記事でも軒並み遅いと書かれている。「遅い」と言っている人は一体何と比べて遅いのか、何処をどんな風に走る時に遅いと感じるのか。個人的にはこれ以上パワーが有っても扱いきれない。
ちなみに、同じトゥインゴの1000ccのMT車でも、マイナーチェンジ前とMC後ではエンジンが違う。
トゥインゴ ゼン(MC前)
直列3気筒 DOCH12バルブ 999cc
71ps/6000rpm 9.3kgm/2850rpm
トゥインゴS(MC後)
直列3気筒 DOCH12バルブ 997cc
65ps/5300rpm 9.7kgm/4000rpm
環境規制に適合させる為のセッティング変更などと書かれていたけど、スペックが明らかに違うので機械的な変更(別エンジン)の様。それに伴って最大トルクの発生回転が2850回転から4000回転とかなり上がっている。なので、後期型モデルの場合はよりしっかり回さないと走らないというのが分かるし、MC前と後では乗り味が異なるはず。
で、結局やっぱり遅いの?
と言えば、今時のターボエンジンと比べたら遅いが、しっかりアクセルを踏んで美味しいゾーンを外さなければ遅くはない、といった印象。MTを駆使して非力なエンジンのパワーバンドを外さない、という乗り方はこの手の車では当たり前というか、それが面白いからこういう車を選ぶんだろう。仮にハイパワーエンジンを積んだら猛烈な加速をするだろうけど、それが楽しいか、面白いか、と考えたら一般道を走る限りは微妙だと思う。
何と比較して、速いのか遅いのか。他の類似した車やエンジンと比較してみる。
日産マーチ(AK12)
直列4気筒 DOCH16バルブ 1240cc
90ps/5600rpm 12.3kgm/4000rpm
エンジンは1200ccだけど車体は930kgと、トゥインゴとよく似ている。90馬力、トルクは12kなのでよく走りそうな気がするけどそうでもない。スムーズ回るけど官能的という訳でもなく、低速トルクが太い訳でもなく、至って普通の実用エンジンという印象。全体的にトゥインゴと似ている。じゃあ遅いのか?といえばそんな事はない。峠の上りも高速道路も不満無く加速する。条件さえ良ければアクセルをベタ踏みにする事も出来るけど、例え90馬力でもアクセル全開にすると一般道では暴走レベルになる。
直列3気筒 DOCH12バルブ 659cc
52ps/7000rpm 5.8kgm/4000rpm
NAエンジンモデルに乗っていた事が有る。軽自動車なので排気量は小さいがトゥインゴと同じRRレイアウトなので構造は極めて似ている。車重が900kgあるのに52馬力でトルクも無く加速は悪かった。ただ、よく回るエンジンだったのでさほど苦にならない。高速道路を120km/hで普通に走れた(当然高回転になるが)。NAエンジンの軽自動車で、しかも今時の高効率型エンジンではなく高回転型なのでこんなものだろう。もたつかずに走ろと思えばやはり4~5000回転辺りをキープする必要がある。速いか遅いかで言えば遅い。NAエンジンは遅いと酷評されていて、後に全てターボエンジンになっている。ただNAエンジンでもちゃんとアクセルを踏めるなら苦になるほどではない。ターボエンジンだとトゥインゴに近いフィールになるかもしれない。
フォードKa
直列4気筒 OHV8バルブ 1293cc
60ps/5000rpm 10.5kgm/2500rpm
年式は1999年と古いけど、車重は940kg、欧州車という事でトゥインゴと比較するには良いかと思う。スペックは明らかにショボい。60馬力なんて今時の軽自動車にも劣る。が、実際に運転してみるとスペックからの印象とは全然違う。低回転から発生する太いトルクでグイグイ加速していく。こんな骨董品レベルのエンジンでこんなに走るんだと驚かされる。短期間で手放してしまったけど凄く良い経験をさせてもらった。トゥインゴがスペックだけでは判断できないというのも、Kaを経験しているから言える事だ。
フォード フィエスタ
直列3気筒 DOCH16バルブターボ 997cc
100ps/6000rpm 17.3kgm/1400~4000rpm
ヨーロッパフォードのBセグメントコンパクトカー。1Lターボエンジンはengine of the yearを3年連続で受賞しているベンチマーク的なエンジンで、要は今時の1Lエンジンならコレくらいのパワーは出るよね、というエンジン。
しかしこのエンジンとんでもないエンジンで、軽くアクセルを踏むだけで猛烈なトルクを発生する。なんせ1400回転から最大トルクが出るので、出足が物凄い。車体の軽さもあって感覚的には1500~2000ccのNAエンジンの様な印象。フィエスタに限らず最近のダウンサイジング ターボエンジンは、コレくらいのパワーとトルクを極低回転で発生するのだろう。同じ1Lエンジンでもトゥインゴとはまるで違う。
じゃあ速いのか?といえば、フィエスタは速い。ただ、速いけど僕には扱いきれない。たかが100馬力とはいえアクセルを全開に出来る様なシチュエーションがない。例え高速道路でも、だ。いとも簡単にコントロールできる範囲を超えてしまうから逆にアクセルを踏みたくなくなるし、駆動系などに過大な負荷を掛けない様に丁寧な操作を心掛ける様になる。奥さんはガチャガチャ操作するけど。
フィアット500S他
直列4気筒 SOHC8バルブ 1240cc
69ps/5500rpm 10.4kgm/3000rpm
誰もが知ってる欧州のAセグメントコンパクトカー。ツインエアエンジンが好評だけど、4気筒1200ccも併売されていた。スペックはトゥインゴとそっくりで、欧州のボトムレンジはこの程度で充分という認識なんだろう。運転した事がないけど動力性能的にはトゥインゴとどっこいどっこいだと思う。その割には「どうしようもなく遅い」とか酷評されていないのはフィアット500のキャラクターの影響だろうか。ちなみにこの1200ccエンジン、fire engineというフォードのKent engineに負けず劣らずの旧式エンジンを使い倒している。スペックは凡庸だけど意外に面白そう。
三菱ミニキャブトラック
直列3気筒 SOHC12バルブ 657cc
48ps/6000rpm 6.3kgm/4000rpm
最後に軽トラ。こんなモノと比べるな、と言わんばかりのロースペック。可変バルブ機構を持たない素のNAエンジンは48馬力しかない。だけど、770kgという車体の軽さもあって充分な加速をする。フィエスタの様に持て余す事はない。全部使い切れる性能で、一般道であれば流れをリードする事も出来る充分なスペック。
トゥインゴがいくら非力だと言っても軽トラよりはパワーが有る。非力だし燃費特化型の超高効率エンジンではないけど、洗練された近代的なエンジンだ。軽トラで充分なのだから、トゥインゴなら余裕だ。実際、フォードKaに乗っている時はたかが60馬力なのに「これは走り過ぎだろう」と思った。しっかりとした車体にほどほどのエンジンを積んだ車は運転が楽しい。まぁこれはあくまで素人の個人的な主観でしかないので、別の意見が有っても当然だろうけど。
トゥインゴは、NAエンジンでもしっかりアクセルを踏めば決して遅くはない。そしてトゥインゴのMT車を好き好んで選ぶ様な人なら、多分しっかり踏める人なんじゃないかと思う。
次は
2)フットレストが無い
について書いてみようと思う。