シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

環境と、出来る人、出来ない人

 

 

 

転職してから1カ月が経った。設備保全という職種は前職と同じだけど、業種が違うので扱う設備が全く異なる為、上手く仕事が出来るだろうか、と心配していたけどそんな事は無かった。というのも、保全業務に携わるメンバーが余りにもお粗末だったからだ。

技術も知識も見るべき所が無く、でもプライドは高くで自分のスキルを過信していて、現場で作業する人達には横柄な態度を取る。僕は新人なので先輩を差し置いて前に出る事は無いけど、一緒に仕事をしていて「あぁこれではなぁ・・・」と幻滅する場面が多々有る。よくこんな状態で今まで大きな問題も無く操業が出来ていたものだと逆に感心してしまう。それで僕が即決採用された理由が分かった。この先輩では、素人や初心者を教育出来ないからだ。いくら若くてやる気が有る人材が居たとしても、一人前の仕事が出来る人材に育てる事が出来なくて潰してしまうからだ。だからそんな先輩に潰されない様に、もう既に「出来上がった」人材でなければいけなかったんだ。僕が転職した理由は前職の環境が良くなかったという事が大きいけど、もう1つ「出来る人と一緒に仕事をしたかった」という事もある。入社して1月も経たずに周囲から「出来る人」認定されてしまい、「コイツは使えないな」と思われるよりはマシだけど僕の当初の目論見は呆気なく外れてしまった。

「出来る人」と一緒に仕事をするのは、非常に楽だからだ。仕事が楽という意味では無い。自分がスキルアップするのがだ。知らない事、やった事が無い事をマスターしていく事は自分1人でも出来なくはないけど、精通した人が居れば真似をすれば良いだけなのでとても早い。僕に残された時間は長く無いので、出来るだけ効率よく成長したい。

前職で、数年の間非常に有能な人と仕事をする事が出来た。大学院卒で一部上場企業に入社し、第一線で活躍してきた人だ。本来なら田舎の中小企業に来る様な人ではないのだけれど、たまたま来てくれた。そこで僕は「出来る人」は一体何が違うのかをまざまざと見せつけられた。知識や技術はもちろんだけど、知らない事、経験していない事に対する処理が全く違う。情報収集能力と分析力が物凄く高くて物凄く速い。知らない事を調べ、過去の経験や知識と照らし合わせて、それを自分のモノにしていく。その能力は「知らないから分かりません。出来ません。」と言う人とはもう雲泥の差が有る。もう1つは、理論的な考察が出来るという点。これは今やるべき作業か否か、という様な微妙な作業に対して、様々な要因をフローチャートの様に考察して判断していく。ただ何となく感覚的に、経験的に決定するのとは説得力が違う。納得出来るし気付かされる事も多かったから、彼と議論するのは楽しかった。

能力が飛び抜けて高い人は、意外にも周囲から煙たがれたりする。理論的な指摘はぐうの音も出ないから責められている様に感じるとか、思考や説明のレベルが高過ぎてついていけないとか、扱いにくい一面が有ったりする。だけど僕には想像も出来ない様な、忖度していてはプロジェクトが頓挫する様な熾烈な折衝を幾度となく経験してきたんだろう。

良い企業というのは、こういう有能な人材が居る会社なんだ。そりゃ規模が大きくなれば「出来ない人」も多くなるだろうけど、「出来る人」もまた多い。そういう環境に入社すれば、出来る人を見て仕事をするから必然的にどの様に仕事を進めて行けば良いか分かる。そうやってまた出来る人が育っていくんだろう。逆に、出来ない人ばかりの中で出来る人を育てていくのはとても難しく、時間が掛かるだろう。それが企業の社風だったり文化だったりするから覆して行くのは相当なパワーが要るし、小規模な企業だと教育に掛けられる時間も費用も少ない。

彼と一緒に仕事をした数年間は、僕にとって非常に貴重な体験だった。彼は定年までこの会社に勤める様なレベルの人ではないのは分かっていたから、一緒に仕事が出来る間はなるべく彼に関わり、出来るだけ彼から学ぼうとしてきた。僕の能力では、あれだけ有能な人と一緒に仕事をする事はもう二度と無いかもしれない。今でも悩んだ時に「彼ならどういう判断をしただろう?」って考える。一つの指針になっていて、彼を知らなければ僕も例の「ただ過信しているだけの人」だったかもしれない。

50過ぎて人に教えてもらおうなんて、虫が良過ぎるって分かってる。でも、幾つになっても学ぼうとする姿勢を捨てちゃいけない。これからは自分自身で考えて判断し律していかないといけない。頑張っても出来ない人は沢山見てきたし、だから出来ない人を責めるつもりも無い。僕自身、いくら頑張っても彼の様には出来ない。ただ、周りに引き摺られずに、でも波風立てず、それでもモチベーションは高く持っていたい。