シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

ツーリングにて

 

 

 

日曜日にバイクの師匠Sさんとツーリングに行ってきた。それはいつもの事で、記事にする様な事でもない。ただ、バイクに乗りながら色々と思う事があったので書いておこうと思った。

 

Sさんの誘いはいつも唐突だ。前日の夕方以降に「明日バイク乗りに行くけどお前も行くか?」と電話が掛かってくる。今回などは電話が来たのは19時半だ。もっと早く言ってくれれば予め準備も出来るのに、と思いつつも、Sさんはそういう人だからと納得している。そもそもSさんは「行くか?」としか言わない。「行こう」とか「来い」じゃない。「お前も都合がつけば来ても良いよ」程度のニュアンスなんだ。なので、電話が来たら行こう。電話が無ければ別の事をしよう。そう思っていたし、先週も誘われたけど僕は家の用事が有ったので断ってる。

待ち合わせ場所に行くと、今回は僕を含めて4人だけだった。いつも6人とか8人とか来ていたけど、今回は仕事とか腰痛とか別の用事などで4人だけらしい。まぁ4人くらいの方が統率が取り易いから都合は良いのだけれど。9割が舗装路、1割がダートで200kmくらい走ってきた。

 

 

思ったこと(1) バイクは疲れる

バイクは趣味だけど、今は独りで乗る事はほとんどない。それは自転車や登山と比べて身体にかかる負荷が少な過ぎるからだ。50を過ぎると体力は衰える一方だ。何かするならトレーニングも兼ねて心肺機能に負荷を掛ける様な事をしたい。なのでバイクに乗るよりは自転車を漕いだり登山したい。1人ならそうする。

が、たかだか200kmくらい走っただけでくたびれてしまった。200kmといっても、見通しが効かないつづら折れの林道とか、道路脇はガードレールが無い谷とか、落石や落葉、砂利、泥、良く滑る苔とか、そういう道を延々を走る。前方と路面状況に絶えず注意を払いながらバイクをコントロールしていくのはそれなりに疲れる。

これはこれで自転車や登山とは違う負荷なんじゃないかと思った。先頭を走るSさんはもっと疲れるはずだ。ダートをガンガン走る訳では無いけど、65を過ぎてこんな事を毎週の様にやっているのは凄いと思った。ゆるゆる走って美味い物食っておしまい、という様な年寄りに有りがちなグルメツーリングなどではない。

まぁ、崩落した林道を乗り越える為に皆で汗だくになりながらバイクを押したりしているから余計に疲れるんだろうけど。そういう、独りでは「絶対やらんわ!」って思う様な事はソロツーリングでは出来ない経験だ。普段独りで行動する事が多いから、バイクに限らずそういう独りでは出来ない経験をさせてもらえるのは素直に有難いと思う。

 

思ったこと(2) 僕の性格

ツーリングで僕は最後尾を走っていた。みんなについて行きながら、あぁすごく楽しいなと思った。改めて、これは僕の性格なんだと思った。あんまり理解されないかもしれないけど、「ついて行かなきゃ!」って思うのが何故だか楽しい。

僕は昔からリーダーシップとかみんなを纏めるとか、自分の意見を押し通すとか、そういうのが苦手だ。逆に、付き従うのが性に合っている。中学生の時にクラスメートの冷やかしで学級委員長にさせられたのは今でもトラウマだ。僕は纏めたり引っ張って行ったりするのではなく、求められれば意見する程度で丁度良い。だから出来るのはせいぜい副委員長とか書記くらいだ。

でも、僕がまだ若かった頃は許されなかった。バブルに向かう頃から絶頂期にかけて、男性はフィジカルもメンタルも逞しくなければならずグイグイと引っ張っていくもの、という価値観が世間の主流だった。それにそぐわない僕は肩身が狭かった。精神的にも未熟だったから尚更だ。

今は良い。ジェンダーレスが進んで、少なくとも80年代、90年代の様な男性性を押し付けられる様な事は無い。僕は付き従うのが性に合ってます、と明言しても冷ややかな目で見られたり嘲り笑われる事も無い(多分)。だけどそうは言っても僕自身がかつての男性性強要時代を経験しているのだから、自分で自分を女々しい性格だなぁと思う呪縛はある。まるで飼い主に尻尾を振ってついていく犬みたいだと。だけどやっぱり僕は先頭を走るよりも後からついて行く方が楽しいし、今までこうしてやって来れたのは良い飼い主に会ったからだろう。

 

 

付き従う方が性に合っているとはいえ、それは自分と考えや価値観、嗜好が合っていればの話で、自分に合わない人には合わせない。合わせられなくはなけど、とても疲れるし、時間も金も使ってそんな事はしたくないから自然と距離を取って疎遠になる。かといって自分と良く合う人などそう多くは居ない。だからどうしたってソロが多くなる。

バイクの師匠Sさんは僕とは全く違う性格で、全く協調性が無い。だから周りが合わせなきゃいけない。Sさんと合わない人は離れていくだろう。でも意外に人が集まる。バイクに関する知識と経験が豊富だという事もあるだろうけど、それだけでも無さそうだ。少なくとも、Sさんは僕にはとても合っている。価値観とか考え方とか通じるものが有って、バイクに関しては多大な影響を受けてきた。相手がいくら知識と経験が豊富でも、考え方が合わない人だと「何だコイツ」って絶対に思ってしまう。相手がベテランであろうが、ショップのプロであろうが、だ。Sさんに対してはそういうのが全く無かった。

僕がバイクに乗り始めてすぐの頃からだから、既に30年近い付き合いになる。Sさんと会わなかったら僕はとうにバイクをやめていたかもしれない。金も無く何にも知らない若造に対して良く面倒を見てくれたものだと思う。随分昔、まだ僕が20代の頃に一度尋ねた事が有る。「どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?」と。Sさんは「周りのバイク屋がロクでもない奴ばかりだから、そんな所に金を使わせるのは可哀想だからだ。」と言っていた。本当の所は分からない。ただそれだけの理由かもしれないし、もっと別の理由が有ったのかもしれない。Sさんが何を思って僕の面倒を見てくれたのかは知らないけど、僕はとても感謝している。

 

バイクの師匠Sさんを、僕は友達とかバイク仲間などとは思っていない。僕にとって本当に師匠だと思っている。僕がツーリングに出掛けるのはSさんとバイクに乗りたいからだ。まぁバイクの師匠であって、決して人生の師匠ではないけど、それも含めてSさんらしいと思う。