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目指すのはジャンガリアンな生き様

クララとお日さま カズオ・イシグロ/土屋政雄訳

 

ノーベル文学賞受賞第一作。カズオ・イシグロ最新作、2021年3月2日(火)世界同時発売 AIロボットと少女との友情を描く感動作。 

★★★★★

 

レビュー

 ロボット(高度なAIアンドロイド)と少女の関わり合いという内容に興味を惹かれて読んでみた。内容的にはSFになるかと思うけど、ノーベル文学賞を受賞する様な人がどの様なSFに仕上げてくるのか興味深い。

紹介文を読んでも内容というかあらすじが全く分からない。そんな予備知識が皆無な状態で読み始めて見て、なかなかに緻密な描写と設定で面白かった。当初はアンドロイドと少女のヒューマンドラマが展開されるかと思いきや、社会問題や人間のエゴや性まで突っ込んでくる。だけど、多くを語り過ぎない。曖昧にしてぼかしている訳では無く、本筋に深く関わらない所は省略しているのだと思う。SF大作の三体は後半は延々と設定の説明を読まされている様で興醒めしてしまったので、本作の語り過ぎない文章は心地良かった。結末は想像と少々異なっていたけど、それも人間は自然と関わらずに生きていく事は出来ない、という解釈とも取れなくもないのかな?

AIやアンドロイドが高度に進化した先に有るものはなんだろう?。それはもう哲学の範疇になるんじゃないか。クララは非常に賢いアンドロイドで、常に迅速に最善と思われる判断をする。それは理想的な言動で、開発者はそういう理想を目指して開発してきたはず。翻って、実際の人間はどうか。粗暴で感情的で短絡的で、全く理論的じゃない。それが「人間らしさ」であり尊重されるべきものであるなら、道徳観念や思慮深い人はどうなる? ただ、高度に進化した将棋ソフトウェアと棋士が共存出来ているというのも興味深い現象で、そこには何か大きな手掛かりが有りそうな気はする。

最後にクララは「特別な何かはあります。ただ、それはジョジーに中ではなく、ジョジー愛する人々の中にありました。」と言っている。それは人が生きる事の本質を指しているんじゃないかと思う。人は何の為に生きるのか?何をすれば満たされるのか?という問いに対して、自分の欲求を満たす事が真の目的ではなく、周囲の人々に自分という人間を理解し記憶しておいて欲しい、という事なんじゃないかと。その最たるものが自身の子供であり、また間違った手段ではあるけど自殺願望者が他人を巻き込む、というのもそうなのかもしれない。