シングル スマイル

目指すのはジャンガリアンな生き様

おいしくて泣くとき 森沢明夫

 

 

 

 

無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。店のオーナーの息子・心也は、怪我で大好きなサッカーができなくなり、中学最後の夏休みを前に晴れない気持ちを持て余している。また心也は、時々こども飯を食べにくる同級生のことを気にしていた。一人は夕花。クラスから疎外され、義父との折り合いも悪い。もう一人は金髪パーマの不良、石村。友情と恋心、夏の逃避行。大人たちの深い想い。〈子ども食堂〉から始まる思いやりの連鎖が、温かな奇跡を呼ぶ。

★★★☆☆

 

レビュー

映画のプロモーションを見て興味がわいたので原作を読んでみた。

正直なところ期待したほどではなかった。以前読んだイニシエーション・ラブを思い起こす。「結果ありき」な印象で、結果に結びつける為にストーリーを展開させている様な印象。母を亡くした男子中学生と義父のDVに耐える孤立した女子中学生、子ども食堂と不良を交えながら展開し、成人後のふとしたキッカケで・・・という流れだけど、どうしても感情移入出来なかった。

おっさんになったからなのかなぁ。人間はもっと下衆いモノだよなぁと思ってしまって白々しくてもう恋愛小説は読めないかも。まぁ、こうした平穏でアットホーム的な小説が高評価されるのは平和で良いのかもしれないけど。

 

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー / アンディ・ウィアー

 

 

 

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。
ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った。

 

未知の地球外生命体アストロファージ――これこそが太陽エネルギーを食べて減少させ、地球の全生命を絶滅の危機に追いやっていたものの正体だった。
人類の英知を結集した「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の目的は、ほかの恒星が光量を減少させるなか、唯一アストロファージに感染していないタウ・セチに赴き、その理由を探し出すことだ。
そして、〈ヘイル・メアリー〉号の乗組員のなか、唯一タウ・セチ星系にたどり着いたグレースは、たったひとりでこの不可能ミッションに挑むことになるかと思えた。

★★★☆☆

 

レビュー

「火星の人」でも有名なアンディ・ウィアーのSF小説。映画化もされるらしい。そんな作品なので期待して読んでみたものの、何だかちょっと拍子抜けする。

例えば、太陽が弱りつつある原因とか、なぜ主人公は一人で宇宙船に乗っているのかとか、主人公は何処を目指して何をしようとしているのかとか、独りきりだと思われた主人公の意外な協力者とか、そういう設定は「おぉ!」と唸らされる。が、全てがプロット的で、謎、立ちふさがる困難、解決、が全て筋道立っているのでハラハラもドキドキもしない。

なんだろう、この既視感は。全てが予定調和的なこの感じ。水戸黄門とか暴れん坊将軍とかではなく・・・と考えて、あぁこれは「映画ドラえもん」だと思った。もっと殺伐として絶望的かつ破滅的で裏の裏をかく様な展開を期待してしまうのは心が汚れているからでしょうか。

 

 

ドラゴンの塔 ナオミ・ノヴィク著/那波かおり訳

 

 

 

 

東欧のとある谷間の村には、奇妙な風習があった。100年以上生きていると言われる魔法使い「ドラゴン」によって、10年に一度、17歳になる娘が一人選ばれる。その娘は、谷はずれの塔に連れていかれ、ドラゴンとともに暮らさなければならない。10年経って塔から出てきた娘は、まるで別人のようになり、村に戻ってくることはないという。
アグニシュカは17歳。そして今年はドラゴンがやってくる年。平凡でなんの取り柄もない自分が選ばれることはない、と思っていた。しかし、ドラゴンに指名されたのは、アグニシュカだった。

 

<ドラゴン>とアグニシュカたちは、計り知れない犠牲を払い、長いあいだ〈森〉に囚われていた王妃を奪還した。だが、王妃はまるで人形のように何も反応しない。
〈森〉の侵入を食い止めるため奮闘するドラゴンを残し、アグニシュカは援軍を請いに、国王の住まう都に向かう。しかし、待ち受けていたのは、彼女の「能力」を認めようとしない魔法使いたちと、〈森〉の恐るべき罠だった。

★★★★★

 

レビュー

本書に関しても著者に関しても何の予備知識も無く単にタイトルが面白そうだったからという理由で手に取ったんだけど、秀逸なファンタジー小説だった。

まず、冴えないモブであるはずの村娘が実は・・・という展開はベタなシンデレラストーリーだろ、しかも<ドラゴン>と呼ばれる齢100を超える魔法使いが端正な青年の姿をしているというのも「あぁはいはいロマンスに仕立てたかったのね」と思わせるのだけれど、その実細かい背景設定と緻密なプロットで成り立っている。17歳の少女が主人公だし児童書なのか?とか、村娘が秘められた魔力で無双するって転生しないだけの異世界モノじゃないかとか、なんか「ハウルの動く城」っぽいなとか思っていたけど全く違う。

10年に一度17歳の娘を連れていくのにも理由が有り、<ドラゴン>とアグニシュカの反りが合わないというのも単なるツンデレではなくちゃんと理由がある。都では実力よりも立ち振る舞いや政治的な力の方が有効であるとか、人の猜疑心は簡単には覆せないとか、ファンタジー小説でありながら実に現実的に描写されていて説得力がある。プロットの緻密さは、著者のルーツがポーランドで地方民話に馴染みが有ったり、経歴としてPRGの開発にも携わっていた様なので、その辺りの経験も生かされているのかもしれない。

王国や周辺の集落が対峙する「森」という存在も、当初は単なる邪悪な物、人に害をなす物というでしかなくて「あぁ薄っぺらいなぁ」と思っていたら下巻になって伏線が回収されていく。何故「森」が出来たのか、何故「森」は人を襲うのか、が明かされていく終盤は圧巻だ。こんな展開どうやって収拾させるんだろう?と目が離せなくなる。

唯一<ドラゴン>が端正な青年である必要性を感じないのが気になる点ではあるけど、うら若き女性主人公に対し周りが爺さん婆さんばかりでは華が無いだろう。<ドラゴン>とアグニシュカがどういう結末を迎えるのかまで、本当に結末まで目が離せない。