ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それは、クラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて――。
★★☆☆☆
レビュー
2015年の作品なのでもう今更ではあるけど、以前より読んでみたいと思いつつ読む機会が無かった。
タイトルは強烈なインパクトが有るものの、設定はありきたりだ。昔から世界の中心で叫んだり、100回泣いたり、四月に嘘をついたりしている。明朗活発な美少女と、そんな彼女とは対照的で接点が無い地味な男子学生。病で余命いくばくもない美少女。くっつくかくっつかないか微妙な二人の関係。彼女の影響で気付き、変わり、成長していく僕。王道中の王道だけど、この作品ならではという明確な個性は感じられなかった。
二人の軽妙なやり取りは楽しい。確かにそういう素をさらけ出して何でも言い合える人が極々稀に居る。反面、結末は頂けない。まさかそういう結末!?という意外性は有るけど、そこに必然性が感じられなくて驚きよりは「は?」と開いた口がふさがらなかった。とても涙もろい僕でもこれじゃ泣けない。
近々死ぬ事が分かっている状態だから恋愛感情にはならない様に距離を取る、陰キャだから女の子の心情に疎い、というのは分からなくもないけど、余りにもフラグを折りまくるので少々イライラする。恋や愛ではなくもっと昇華した違う形を指し示したかったのかもしれない。でも、それにしては何とも中途半端で表現し切れていないし、一度しかない人生なら恋人として絶頂の状態で看取る事もまた幸せなんじゃないかと思う。何も彼氏でもない男といけない事をする必要はない。
文章量は少ないし会話のテンポも良いので一日で読める。読み進めたくなるのは良いけど、深読みする様な要素は無いので映画で観ても良いんじゃないかと思う。設定が酷似している「四月は君の嘘」の出来の良さを再確認させられる。本作は著者のデビュー作なので、今後に期待したい。