昨シーズンは暖冬で雪がとても少なかったけど、今年はどうだろう?たくさん降るかもしれない!という訳で、新たにスノーシュー買った。本格的なシーズンに入ると需要が増して高くなりそうだから、あらかじめ用意しておく。
今までは安物のノーブランドのスノーシューと、ワカンを使ってきた。登山者が多い冬の一般的なコースとか緩斜面ならこれでも充分歩ける。だけど、人が歩いていない深雪の斜面とか、急峻な斜面、例えばこんな所とか、あんな所になるとさすがに限界を感じる。これはもう体力とか根性とかでカバー出来る範囲じゃない。無理。
そこで、もっと楽に歩く為に考えた事は、
1) ワカンを改造する
2) 高性能な山岳用スノーシューを手に入れる
ってな訳で。
まず考えたのはワカンの改造。安物スノーシューを改造するよりはワカンの方が加工しやすいという点からワカン。まずワカンの浮力を上げるのと、急斜面とトラバースでのグリップを上げる事は考えてはいたんだけど、それらの手間暇と効果を考えると素直に良い物買った方が良いんじゃないかと思えた。まぁそりゃそうだ。
で、高性能な山岳用スノーシューといえばMSR一択なんだよね。
MSR LIGHTNING ASCENT ライトニングアッセント(男性用) ブラック 25インチ 40607 【日本正規品】
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ライトニング アッセントはMSRの製品の中でもハイエンドモデルになる。性能は抜群だけど価格も抜群で、定価だと45000円位する。アホか。
山岳用でももう少し廉価なモデルが有るんだけど、それにしても3万円は下らない。アルミフレーム使ってるからと言って、ライトニングなんて素材も構造も極めてシンプルなんだか45000円は高過ぎる。しかも並行輸入品に対しては補修パーツを販売しないらしい。アホみたいに高いのは、パテントとマージンなのか? 海外通販サイトで買えないかな?って思ったけど、TSLしか取り扱いが無い。
欧州ではMSRはメジャーではないのだとしたら、必ずしもMSRでなければ登れないというものでもないのだろう。 いくら高性能とはいえ、貧乏人に優しくないMSRは買う気無くなった。MSRにソックリなコピー商品が売っていて、それが1万円以下で売ってる。
North Eagle(ノースイーグル) ハードスノーシュー NE1021 NE1021 【日本正規品】
- 出版社/メーカー: North Eagle(ノースイーグル)
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ここまでソックリだとちょっと問題じゃないのか?と思うんだけど、大体8千円くらいで売ってる。MSRと同等の性能とは言わないまでも、結構良い線行くんじゃなかろうか? 実はこのモデルの前に、ライトニングアッセントにソックリなハイグリップハイパイロン スノーシューNE1035というモデルが販売されていた様で、これがまた1万円以下という破格値で売っていたみたいで、これなら絶対買うんだけど残念ながらもう売ってない(2018年1月時再販してた)。仕方ないから、NE1021を買うか、でも安物だと壊れないかしら?とか言いながらノーブランドのスノーシューで散々過酷な山に分け入ってるし、壊れても応急で何とか帰れるんじゃないか?でもまた中途半端な物買って役立たずでも困るし。とは言うもののいくらなんでもMSRは高過ぎるだろ。と、葛藤した末に買ったのが
ATLASはアメリカのスノーシューメーカーで、モンベルが取り扱っている。アスペクトは山岳モデルの中でもハイエンドモデルになる。定価は35000円だけど、丁度程度の良い中古が出てきた。相場的にはMSRよりもずっと標準的で、MSRがいかに高額か(人気か)がよく分かる。
左から、ワカン(オクトス)、ノーブランドのスノーシュー、ATLASのアスペクト24。アスペクトは28も有るけど、28だと全長が70cmを超えるのでデカ過ぎる。アスペクト24だと60cm位で丁度今まで使っていたノーブランドと同等になるから買うなら24を考えていた。実際には60cmでも大きい位で、広い雪原ならともかく木々の間を縫って急斜面を登る様なシチュエーションでは取り回しに苦労する。そうするとMSRライトニングアッセントの22というサイズは絶妙なサイズ感かもしれない。
3980円くらいで買ったノーブランド。一般的な雪道ならこれでも充分歩けた。ネックなのは登坂能力とトラバースで、クランポン(足を乗せる爪部分)でしかグリップしないからトラクション(グリップ力)が圧倒的に足りない。横方向もクランポンのみなので、斜面を横切る様な場合は呆気なく滑る。ただ、浮力は抜群で、ふかふかの雪面でも充分歩けたし、ラチェット式のバンドも使い勝手が良くて、酷使した割には壊れる事も無くコストパフォーマンスは非常に高かった。
対してATLASのアスペクト24。ATLAS社の山岳用スノーシューのハイエンドモデルというだけあって、随所に違いが見られる。まずフレーム自体がクランポンとしての機能を有する。これはMSRに良く似ている。そして、横に渡されたトラクション用のブレース。靴部分のクランポンにプラスして、このブレースでもトラクションを稼ぐ構造。ちなみにMSRライトニングアッセントはブレースが2本有るけど、アスペクトの登坂能力も素晴らしく、安物スノーシューなら呆気なく滑り落ちる斜面でもしっかりグリップする。疲労感が全然違う。
フレームと横渡し部分を別角度から。ATLAS社の製品ラインナップや一般的なスノーシューを見るとどれも似た様に見えるけど、この裏側が全然違う。ここがミソで、アスペクトはトラクションを稼ぐために結構凝った素材を使っているのが分かる。この構造はワカンやスノーハイク用スノーシューに比べると圧倒的な性能差が有る。トラバースの安定感が全く違う。これはトラバースだけではなく、あらゆる方向でも滑らず、急斜面を下る際もスノーシューを横に向ければ滑り落ちる事が無い。
後部はデッキ(内貼り)が外に出ない構造になっている。これもMSRに似ている。アルミフレームに内貼りを巻き付けて固定する構造が一般的だけど、フレーム自体がクランポン(エッジでグリップさせている)になっているからデッキ端を巻く事が出来ない。巻き付け部分が外にさらされない事で木々や岩で引っ掛けたり自分で踏んだりして破損させる危険性が減るというメリットも有るけど、構造が面倒でコストが掛かる。
バインディング(靴を乗せる部分)はガッチリと固定されておらず、バンドでフローティングされる様な構造。トラバース等でスノーシューに対して足首がズレる時に、フローティング構造で逃げる様になっている。バンドが切れたら終わりなのでちょっと微妙な構造だけど、過酷な状況下でも使用感はしっかりしていて頼りない印象は無かった。
バインディングのストラップは引っ張ってフックに引っ掛ける仕組み。シンプルな構造と操作性を両立させている。これはかなり秀逸で、操作性と使用感をハイレベルで両立させている。取り付けはベルトを1本フックに引っ掛けるだけで完了する(踵部分のベルトは予め固定しておくと早い)。しかもベルトは伸縮性の有るゴムバンドなので使用中絶えず靴にテンションが掛かるので、過酷な使用状況でも緩むことが無い。ベルトの耐久性が心配だけど、モンベルが取り扱っているので補修パーツの入手も容易そう。バインディング部分はフラットになるので収納時はかさばらない(スノーシュー自体がかさばるけど)。余ったバンドを固定しておくフック(赤いプラスチック)で固定しておく。固定しないとバンド先が開いてしまってフックから外れやすくなる。
山岳モデルなのでヒールリフトも装備。急斜面を歩く際に踵を上げて楽に歩ける様にする構造。履いている状態で片手で上げられるけど、下げる時は両手で両側を押さえる必要が有る。ヒールリフトを上げると必然的に爪先が下がって、クランポンが食い込む形になるので機能的ではあるけど、急斜面/緩斜面が繰り返すようなシチュエーションでは手軽とはいえ面倒くさい。急斜面を歩くなら有るに越したことはない(山岳モデルには必ずついている)けど僕は急登でも使わない。トラクション能力が秀逸なので使わなくても苦にならない。
先端部分のデッキ(内貼り)はフレームに巻き付ける構造(外に出ている)。その為、内側だけ巻き付け部分を保護するプロテクターがついている。歩く際に自分で自分のスノーシューを踏んで内貼り巻き付け部分を切ってしまわない為の配慮と思われる。さすがにハイエンドモデルだけあって結構細かな所まで造り込まれてる。
こうして改めて細部を検証すると、結局MSRのライトニングアッセントって素晴らしいなと思う。極めてシンプルな構造でありながら最大限の効果を発揮する様に設計されている。複雑な構造は格好は良いけどそれだけ破損するリスクが増える上に重量も増す。これは理想的じゃないかと思う。ただ、45000円の価値が有るか?と問われれば微妙。なんか釈然としない。
対して、ATLASアスペクトはかなり凝った構造と細部まで気遣いされた仕上げで価格なりの価値は有る様に思えるし、実売価格も妥当な印象を受ける。また、モンベルが取り扱う商品なので、修理や補修パーツの購入などアフターの面で安心感が有る。MSRにしとATLASにしろ、これだけのスノーシューが必要な場面というのは相当過酷な使用状況になるはずで、そうすると使えば補修が必要になるのも仕方が無い訳で、使い捨てじゃないからそういうアフター面の充実度は重要だと思う。
なので、誰かに勧めるとしたら、パフォーマンスで言えばMSR。コスパで言えばアトラス。ただ、これだけのスノーシューを必要とする人もそうは多くないと思う。一番驚きなのは3980円のスノーシューが、散々酷使したにも関わらずいまだに壊れずに使えるという事。なので、とりあえず安いスノーシュー買ってスノーハイクを楽しんでみて、スノーシューの性能が追いつかなくなった時に山岳用スノーシューを考えれば良いんじゃないかと思う。
参考に、主要メーカーの性能テスト記事。
やはり価格以外は圧倒的にMSR。
さて、山岳用スノーシューが安物とどれだけの差が有るのか。今までよりもずっと少ない体力で歩く事が出来るのか。そうすると、とんでもない領域まで踏み込んで行くことになって、その先でスノーシューが壊れたらもう帰って来れないという状況になりそうなのが懸念でもある。
ワカンを改造するのも面白いかなと思うので、それも追々やれたら良いなと思ってる。
追記(17.01.28) 実際に使用してみての印象
ほとんど傷が無い状態で手に入れたけど、1回使ったら傷だらけになった。山岳用スノーシューの性能が求められるような場所を歩くと傷つくのは仕方が無い。プロテクターは伊達じゃなかった。
圧倒的な登坂能力と、横向きでのグリップの高さは素晴らしい。今までならスノーシューを外さなければいけない場面でも躊躇なく歩ける。装着に関してもベルト1本引っ掛けるだけという手軽さに加え、過酷な使用状況下でも緩まず安定して歩ける。MSRライトニングアッセントに比べると多少性能差があるかもしれない。でも、安物スノーシューやワカンとの性能差に比べたら誤差みたいなもの。
会社の友人は八ヶ岳(横岳?)でスノーシュー履いている人など居なかった、せいぜいワカン持っている人くらいだ。と話していたし、伊吹山でも一般的な上野ルートならワカンでも充分かもしれない。メジャーなルートで良く踏まれている状況下なら、こんな高価でハイパフォーマンスなスノーシューは要らない。でも、誰も踏んでない雪面を歩くなら、この上ない武器になる。スノーシューは重い、大きくて取り回しに苦労する、雪抜けが悪い、というネガティブな感想も有るけど、僕の感想としてはこれ以上優れた雪上歩行ギヤは無い。多少の不都合が有っても、この歩きやすさは圧倒的なアドバンテージになる。
高性能スノーシューはMSR一択だったのでアトラスの製品には多少不信感が有ったものの、これだけの性能が有れば文句ない。ハイエンドモデルは伊達じゃなかった。なので、MSRに拘らなくても良い製品は有るかもしれない。また、MSRにしても必ずしもライトニングにしなければいけないというものでもないと思う。自分の使用状況と懐事情で色々考えてみるのも面白い。
追記
その後、雪山ではいつも使っている。山岳用スノーシューの効果は絶大で、ソロで新雪やバリエーションルートを歩くには必須だと思う。少なくとも僕にとってはワカンやツボ足よりも遥かに楽に歩けるから重宝している。充分元を取るだけ歩いたので、ならば多少割高でもMSRライトニングアッセントを買っても良かったかもしれない、と思わなくも無い。ただ、アトラスのバインディングシステムは秀逸で、脱着が手早く出来る。スノーシューを最初から最後まで履きっ放しという状況はあまり考えられなくて、アイゼンに替えたり登山靴だけにしたり状況に応じて幾度も替えるので、脱着のしやすさはとても重要な要素になる。