大人の男に一番似合う車
はじめに
軽トラのインプレッションはほとんど無い。個人の有志が書いた記事は僅かに散見されるものの、車関係のメディアで軽トラのインプレなど見た事が無い。それでも各メーカーが自社生産していた頃はそれぞれが個性的で個人的にはとても面白い車だと思う。
インプレッションと言いつつも僕には車を的確かつ客観的に評価出来るほどの知識も技術も経験も無い。更に車に対する嗜好は快適性とか利便性、高級感よりも極力簡素な物を好むので、世間一般的な評価とはかなりズレている。ましてや軽自動車でトラックだ。これを何と比較して評価するのか、何を重視して評価するのかで結果は全く違うものになる。そんなインプレに意味が有るのか微妙だけど、素人のかなり主観的な意見だと思って流して欲しい。
【スペック】
三菱 ミニキャブトラック 1999年式 グレードTD?
車両型式 GD-U62T
全長・全幅・全高 3395×1475×1775mm
最低地上高 150mm
車両重量 770kg
エンジン型式 3G83
直列3気筒SOHC12バルブ 過給機無し 657cc
ボア×ストローク 65.0×66.0mm 圧縮比 10.2
最高出力 48ps(35kw)/6000rpm
最大トルク 6.3kg・m(62N・m)/4000rpm
駆動方式 副変速機付きパートタイム4WD
燃料タンク 40リットル
Fサスペンション マクファーソンストラット コイルスプリング
Rサスペンション 半楕円リーフスプリング
Fブレーキ ディスク(ソリッド)
Rブレーキ ドラム
タイヤ(前後) 145R12-6PR
最小回転半径 4.4m
変速比前進 3.882/2.447/1.594/1.000/0.852
変速比後退 4.270
最終減速比 6.857
燃費 実測: 12km~15km/L台(普段~km/L)
各部詳細
6代目ミニキャブトラックの1999年式。1998年の軽自動車規格変更(車体寸法の拡大)を機にフルモデルチェンジしたモデル。型式U61はFRの二駆、U62は四駆、TはトラックでVはバンになる。
モデルチェンジを機に従来のフルキャブ(座席が前輪の真上)からセミキャブ(座席が前輪の後ろ)に変更された。変更の理由は衝突安全性、安定性、乗り心地の向上の為。外観のデザインも従来の軽トラには無い斬新なものだったけど、ユーザーの受けは悪かったみたいで僅か2年でフロントマスクが変更されている。その割には今でも時折見かけるのでそこそこは売れていたんじゃないか。
発売当初はRALLY ARTのオプションキットまで販売されていた。RALLY ARTのミニキャブトラックは一度も見た事が無いけど、今なら売れたんじゃないかと思う。あまりにも時代を先取りし過ぎた様だ。
6代目(U60系)は幾度かマイナーチェンジして内外装が変わっているので違う車の様に見えるけど、三菱自動車が製造していた1999年~2014年間は同じ車(同じ型式)になる。スズキとホンダも当時はセミキャブで販売したものの後にフルキャブに戻している。三菱で造っていたミニキャブは最後までセミキャブだったので、結果的にセミキャブ構造で最も高年式な軽トラは三菱製になる。セミボンネット形状になっているけどボンネット部分は開閉せず、クラッシャブルゾーンとして使われる。ラジエターやエアコンの放熱器などがぎっちり詰まっているので前をぶつけると修理代が高額になるらしい(車屋さん談)。
前輪は車体前端に配置、後輪は荷台後端ではなくやや前寄りに配置されている。同じセミキャブ時代のスズキ・キャリイトラックのホイールベースが2350mm、ホンダ・アクティトラックが2420mmなのに対し、ミニキャブトラックは2200mmと若干短く、その為フルキャブ構造に比べても最小回転半径は僅かに大きくなる程度に収まっている。反面、ホイールベースは極端に長くなっていないので直進安定性もそこまで高くない。また、乗用車に比べてホイールベースが短い為、ギャップ(路面凹凸)に極めて弱い。個人的には田んぼのあぜ道など走らないのでホンダ並みに長い方が良かった。
ラダーフレームの上に荷台が載る構造。トラックなのでかなりしっかりとした剛性感が有り弱い感じはしない。ただ、車体のしっかり感を感じる前にサスペンションの突き上げが酷くてそれどころじゃない。
最低地上高は150mmなのでそれほど高くないけど、それは恐らくデフの辺りだと思う。ラダーフレームやエンジンは意外に高い位置にあり、腰高な印象。なので乗用車に比べると基本的な運動性能は劣ると思う。
ガソリン給油口は右側。後端荷台下に有るので給油しにくく、キャップは鍵で開けなければいけない上に2段階になっていて開け閉めがし難くて、さらにタンクと給油口が近いから開けた時に気化したガソリンが噴き出したりするので面倒。
フルモデルチェンジに伴い荷台寸法が若干短くなっている(その後MCで拡張された)。ユーザーには不評だったらしいけど、プライベートユースには充分過ぎる広さ。
後部窓ガラスの上に軽トラでは初となるハイマウントストップランプが装備されるけど、この車両は低いグレードらしくついていない。
テールランプはミニキャブトラック特有の菱形でバンとは異なる。フロントと違ってリヤ周りのデザインはマイナーチェンジでもほとんど変わっていないので、リヤだけ見ても僕は年式の違いを判断出来ない。
左側荷台下にバッテリーが有る。小振りなバッテリーなので安価だし、むき出しなので交換は楽。あおり戸は3方開なので左右後ろ共に全部開くし、取り外す事も出来る。
当時は荷台下の側面をカバーする純正のエアロパーツ?が有った(これの車体部分)。中古車でも稀に装着した車両が出てくる。この車両はグレードが低いので助手席側にカギ穴が無い。比較的大きめのドアバイザーが付いているので雨天でも窓が開けられるのは便利。ドアミラーは縦型の大振りな物で視認性は良好。角度調節は手動。
一見何て事無い軽トラだけど、何かと制約が厳しい軽トラにしては頑張ってデザインされている。側面も微妙にプレスラインが入っていて今見てもデザイン性は高い。
デザインだけでなく、軽規格変更によって衝突安全性が格段に向上している。以前軽規格変更前の軽トラに乗っていたけど、フロントのクラッシャブルゾーンなど無いに等しい構造で衝突したら呆気なく死ぬんじゃないかと思った。なので乗るならミニキャブトラックでなくてもせめて1999年式以降にした方がまだマシかと思う。それでもドアはとても軽々しいので側面から衝突したらタダでは済まない感じはする。
フロントサスペンションはストラット。スタビライザーは無い(ダンプには有るらしい)。ブレーキはディクスだけど12インチホイールなのでディスクもかなり小径。ベンチレーテッドではなくソリッドディスク。軽トラだからという訳では無くうちに有るダイハツ・ミラジーノもソリッドディスクなので、この年代の軽自動車はコスト優先で走りにはそこまで力を入れていないんだろう。今では当たり前のABSも当時はオプション設定でこの車両には付いていない。
ストラットのロアアームはサブフレームに固定されている。四駆なのでフロントにもドライブシャフトが有る。
リヤはリーフスプリングにリジッドアクスル。ブレーキはドラム。
リーフスプリングで位置決めされるので、パジェロミニの様なリンクアームは無く非常に簡素。
ラダーフレームの左右を丸パイプで連結しているけど少々頼りないサイズ。荷台は只の一枚板ではなく、ラダーフレームとの連結部分で横方向にコの字型の補強が入っている。補強によって荷台の耐荷重性を高める以外にも、車体の強度部材としても役立ってそう。
運転席。軽トラにしては頑張っていて窮屈な印象は受けないし、乗り降りも格段にしやすい。ミニキャブトラックの運転席はちょっと独特で、サイドブレーキが右側の「普通そんな所に無いだろう」っていう場所に有る。最初は室内を広く使う為に邪魔にならない場所に配置したのかと思ったんだけど、どうやら運転席を左に寄せる為の様だ。というのもセミキャブ構造の為右足付近に前輪のホイールハウスが有って邪魔になるから。ホイールハウスを回避してペダルを左に寄せた影響で運転席も左に寄せ、その結果行き場が無くなったサイドブレーキを右に持ってきているみたいだ。なので運転席とドアまでの間隔がちょっと広い。ただ、その影響で只でさえ幅が狭い軽自動車なのに、助手席との間隔がより狭くなっている。
セミキャブ構造の為、右足付近にホイールハウスが有る。窮屈そうに見えるけど、ペダル周りも窮屈さは感じない。フルキャブのダイハツ・ハイゼットトラックを運転した時は「あれ?ペダル何処だ?」って足元を覗き込まなければいけなかったので、セミキャブだからペダル配置が苦しいという訳でもなさそう。足元が狭い割にはアクセルとブレーキは離れていて、ヒール&トゥはとてもやり難い。農作業などで誤操作しない為の配慮なんだろう。
ペダルの操作感はとても軽い。軽々しいほど軽い。その為MTでも疲れる事は無いけどトラック形状の為ペダルは上から踏む様な格好になり、踵を付けてペダル操作する僕にはやや操作し辛い。
メーターはまるで原付スクーターの様な古臭いデザインで高級感の欠片もない。タコメーターも無いし(後付けで社外品のメーターを付けている)、トリップメーターも付いていない(オプション設定)。ただ、水温計は付いている。特に四駆の場合は低速でエンジンを回して走る場合も有るので、水温計が付いているのはとても良い。
ウインカーやワイパーのスイッチは簡素で安っぽく見えるけど操作感はとても良い。これは乗用車と共用だからだろう。ワイパーに間欠機能は無いけど、ミスト機能が有るので手動で間欠ワイパー出来てちょっとだけ便利。
純正のステアリングがめちゃくちゃ細いのでハンドルカバーを付けると丁度良い太さになる。暇と金が有ればもう少しマシなステアリングに換装するかもしれない。
純正オーディオはAMラジオのみ。FMは入らない。なのでFMトランスミッターも使えない。スピーカーがオーディオ本体と一体型なので、汎用オーディオに交換しようとしてもスピーカーが無いので使えない。スピーカー一体型のオーディオは売っているので暇と金が有ればそのうち交換するかもしれない(その後交換した)。
空調の操作ダイヤルも簡素で安っぽいけど、その分直感的に操作出来て良いし簡素な方が故障しにくくて良い。
ハザードのスイッチは上の方の操作しやすい位置に配置されている。
シフトレバーと四駆の切替スイッチ、左側に低速切替レバーが有る。シフトノブは社外品。レバー類はパジェロミニとは違う位置に配置されているけど、邪魔にならない位置になっている。シフトのフィーリングは節度が悪くてとても褒められたものじゃない。四駆だしコストダウン著しい商用車なのでこんなものだろうけど、それでも四駆でトラックの割にはストロークがそこまで長く無いのでチェンジはしやすくて軽快に走る。
1速の減速比が低過ぎるので荷物を満載していない限りは2速発進で丁度良い。実質4速MT。5速の減速比はオーバードライブになっているけど、それでも80km/h以上は吹け切った感じになる。パジェロミニ同様3速と4速が離れ過ぎている。市街地レベルならあまり苦にならないけど、峠道などの加減速が著しい場面ではとても使い難い。これは4速MTのなごりじゃないかと思う。5速MTの4速が減速比1.00になっているので、この4速がかつての4速MTのトップギヤだったんじゃないか。4速MTは1速~3速が加速用ギヤでクロスしていて、4速は巡行用で離れている。だから3速と4速が離れているのも理解出来る。その4速MTにオーバードライブを追加したのが5速MTじゃないのか。なので5速といっても出力特性に合わせてギヤ比を選定している訳では無く、既存の流用だから繋がりが悪い。
以前乗っていたパジェロミニはトランスミッションが故障したので、同類の駆動系のミニキャブトラックを購入するのは躊躇いが有ったんだけど、行きつけの車屋さんはミニキャブは結構良いと言う。まぁどのメーカーを選んでも壊れる時は壊れる。
助手席側もホイールハウスの張り出しがあるけど、窮屈な感じはしない。ただ、助手席側のエアコン吹き出し口が省略されている。また、助手席側エアバッグはオプションでこの車両にはついていない。
ダッシュボード周りには平らな物置が多数設けてあるので、ホルダーやメーターを設置する場所には困らない。ただ乗り心地が悪くて飛び跳ねるので、むやみに物を置かない方が良い。スマホホルダーにしっかり固定したスマホが落っこちる程度には酷い振動に見舞われる。
窓はハンドルをくるくる回して開閉する。個人的にはこれで充分でパワーウィンドウは要らない。簡素な構造は故障する可能性も低いし、エンジンを切っていても窓の開閉が出来るのは逆に都合が良い。
座席の下にエンジンが有る。画像は助手席の下。シリンダーを斜めに傾けた縦置きの3気筒エンジンが収まる。何の変哲もないSOHC4バルブのベーシックなエンジンながら、燃料供給はインジェクション、点火はダイレクトイグニッションと一応近代化されているし非常にコンパクト。官能的なエンジンフィールではないけど低回転域も扱いやすくて実用的なエンジン。低回転は驚くほど粘り、「あ、エンストした」と思っても止まらない。いまだかつて一度もエンストした事が無い。積載時とか、狭いあぜ道での低速の切り返しなどでもかなり有効だろう。このエンジンの方がよほどパジェロミニ向きだと思う。
運転席の下。インテークマニホールドがやけに長いのは、エンジンルームが狭いからなのか、出力特性の為なのか。リザーブタンクとオイルレベルゲージも運転席側に有る。
座席の下にエンジンが有るので、走行中にエンジンノイズがかなり聞こえる。官能的なエンジン音ではないけど耳障りな音でもなく、加速時はエンジン音の盛り上がりが聞こえるしシフトダウン時のブリッピング音も聞こえるのでこれはこれで面白い。
1stインプレッション
乗り心地が悪い
乗り心地はかなり悪い。軽トラなんだから乗り心地が悪いのは当然なんだけど、この独特な乗り心地は実際に乗るまで予想出来なかったしネット上でも指摘されているのを見た事が無い。と言うのも「前後に揺さぶられる」からだ。
乗用車でもフルキャブの軽トラでも、通常路面の凹凸によって上下に揺れる。ショックの大きさや質は車によって異なるけれど、上下方向に揺れるのは共通している。が、セミキャブ構造のミニキャブトラックは上下の揺れに加えて前後にも揺れる。これは今まで経験した事が無いので、セミキャブ構造に由来するのかもしれない。しかもダンパーの減衰が甘いのでユサユサと揺り返しが発生する。未だかつて前後に揺れる車なんて経験した事が無いので、視覚情報では上下に揺れるつもりで居るのに、身体は前後に揺れるので脳がバグってしまって自分で運転しているにも関わらず酔いそうになる。
これを解決するには、1)車を替える 2)足回りを換える 3)慣れる のいずれかしか無いと思うんだけど、現実的な解決方法は慣れるしかない。3日くらい走って何とか慣れた。慣れても快適ではないけど酔う程酷くもない。
ちなみに助手席に奥さんを乗せて500km位走ったけど酔いもせず普通に乗っていたし、車屋さんに尋ねても「軽トラはこんなものじゃないか」と言っていた。が、代車で借りたダイハツのバン(セミキャブのハイゼットカーゴ)は乗用車かと思うほど乗り心地が良かった。バンだから乗り心地が良いのか、ハイゼットが良いのかは分からない。
この症状が、個体によるものなのか、ミニキャブトラック独自のものなのか、他のセミキャブの軽トラでも同様なのか、セミキャブのバンでも同じなのか、他のセミキャブに試乗する機会が有れば乗り比べて確認してみたい。
追記
乗り心地が劣悪なのはタイヤの空気圧が高めだった事も影響していた。指定の空気圧にしたら感覚的に2割程度改善された。
メーカー指定タイヤ空気圧
・145R12-6PRLT 2名乗車+100kg以下積載時
前輪200kPa 後輪240kPa
・145R12-6PRLT 定積載(350kg)時
前輪200kPa 後輪350kPa
空荷の状態なら前後とも200kPaで良いんじゃないかと思う。貨物車両の場合は耐荷重と乗り心地のバランスの為にタイヤの空気圧は意外にシビアなのかも。
シチュエーション毎のインプレ
〇市街地走行
★★☆☆☆
メリット
コンパクトな車体で小回りが効き取り回しが楽。ドライバーの視点が高く視認性良好。四角いボディで車両端が把握しやすい。
デメリット
乗り心地が悪い。二人乗車すると手荷物の置き場が無い。
インプレ
車体は小さく、見切りが良く、視点も高く、小回りが効くので取り回しは非常に楽。狭い路地でも狭い駐車場でも臆することなく入って行ける。後方視界やミラーも見やすくて死角が出来にくいので、全くぶつける気がしない。エンジンパワーは無いけど車体が軽いので市街地レベルなら加速に不満はない。
ネックなのは乗り心地の悪さと室内の狭さ。サスペンションの酷さはパジェロミニの比じゃない。路面のちょっとした凹凸も如実に拾って飛び跳ねる。4~50km/h程度なら何とか耐えられるけど、それ以上の速度でギャップに入ると壊れるかと思う程酷い事になる。小径タイヤと短いホイールベースは余計にギャップに弱い。
室内は1人なら充分な広さだし成人男性でもポジションが窮屈とは思わない。ただ2人乗車だとちょっとした荷物すら置く場所が無いのは不便。上着やカバンすら置けない。荷台は広いけど鍵付きのボックスでもなければ荷物を放置出来ない。
個人的には市街地走行も楽しいし面白いと思うけど、酷いサスペンションと室内の狭さのせいで客観的な評価はせいぜい★1~2くらいじゃないかと思う。ただ、その2点さえ許容出来ればシティコミューターとしては秀逸。そんなのがシティコミューターと呼べるのか疑問ではあるけど、少なくともスマートKよりは自在に操れて運転は楽しい。
〇ワインディング
★★☆☆☆
メリット
軽い。
デメリット
重心が高い。座席が高くポジションが悪い。足回りが酷い。ギヤの繋がりが悪い。
インプレ
48PSしか無いけど特に非力な感じはしない。上り勾配でも加速する。ただ、5速MTのうち1速は低過ぎて使えないので実質4速MTに等しく、また3速と4速が離れ過ぎている。その為3速では吹け切ってしまうが4速では失速するシチュエーションが頻発する。これはパジェロミニ(NAエンジン)とそっくりだけど、車体が軽い分何とかかろうじて4速が使えるのは救い。3速が低くて使い難いので、結果的に4速の守備範囲がめちゃくちゃ広くなる。
トラックなのでサスが硬いのは覚悟していたけど、ダンパーの減衰が悪いせいか揺り返しが酷い。スタビライザーが無いのでロール感が酷くてラインがはらんで行く。足回りの酷さはパジェロミニの比ではなく、路面状況が悪い道で無理をすると本当にどっか飛んで行ってしまいそうになる。
トラック形状なので座席が高い。市街地走行では視認性が良い反面、ワインディングでは高過ぎるしポジションも悪い。座席下にエンジンが有るので構造的にシートをこれ以上下げられない。セミキャブ構造なのでフルキャブの軽トラに比べればマシだけど、足元にフロントタイヤが有るのでコーナーリングは前のめり気味な印象を受ける。
なんだかんだ言っても(路面さえ良ければ)サンデードライバーをリードする位は走る。フォード・Kaの様なしっかり感は無いけど、それとはまた違った楽しさがある。軽々しくて振り回せるのでNAエンジンのパジェロミニよりも楽しく走れるし、パワーが無いので扱いきれるのも良い。
元々簡素な車だけど、ダートや雪道を走らないのならより簡素な二駆の方が良い。四駆よりもシンプルで軽くなる。一応縦置きのフロントミッドFRなので構造だけ見れば激レアな軽自動車だし、簡素で軽量な車をMTを駆使して走るのは楽しい。
スタビライザーを追加して、まともなダンパーとバネに交換すればかなり面白い車になりそうな気がする。ちなみにスズキ・キャリーとダイハツ・ハイゼットはその手のスポーツ走行向けパーツが市販されている。なのでイジるならパーツが豊富な売れ筋のスズキかダイハツにした方が良い。ただ、速く走る事を目的とした構造ではないので過度なモディファイによって速さを突き詰めるよりは、常識的な範囲で楽しく走れる方が良い様には思う。
〇ダート
★★★★☆
メリット
コンパクトな車体。副変速機を持つ本格的な四駆構造。
デメリット
タイヤ径が小さい。最低地上高が低い。
インプレ
林道にしろ積雪路にしろオフロードコースにしろ、軽量でコンパクトなのは有利。これだけ小さくて軽量で四駆なら何処でも入って行けそうな気がするけど、タイヤが小径なのと最低地上高が低いので悪路走破性はクロカン四駆ほど高くない。
パジェロミニ同様、2WD、4WD以外に低速4WDが使える副変速機が有る。1速がかなり低速の減速比になっているので、副変速機と合わせて半クラッチを使わなくても這う様な極低速で走行出来て荒れ地や雪道では扱いやすい。ただ、センターデフを持たない四駆なので、四駆にした時はコーナーリング時に前輪と後輪の内輪差でブレーキが掛かる。グリップの良い路面ではタイヤと駆動系に負荷が掛かるので四駆にするのは滑りやすい路面だけにしておいた方が良い。
この車両にはLSDもデフロックもついていないので、いくら四駆でも前輪の片方+後輪の片方がスリップするとスタックする。オプションには有った様。それでも大雪の時に周りのFF車が軒並みスタックする所を平然と走れたのでやっぱり四駆は凄い。走破性の一番のネックは最低地上高かもしれない。
パジェロミニと比べると車両自体の走破性は低いけど、広大な荷台が有るので汚れ物を気兼ねなく放って置けるのと、多種多様な道具類を持ち運べるのは利点。
〇高速道路
★☆☆☆☆
メリット
無し。
デメリット
ギヤ比が低速向きでエンジン回転数が高めになる。うるさい。乗り心地が悪い。
インプレ
5速で100km/h時にエンジン回転数は5300rpm位。一応6500rpmくらいは回しても大丈夫だと思うけど、高回転が得意なエンジンではないし普通に高速道路を走るだけでほぼ吹け切ってしまう。ホイールベースが短いので直進安定性は悪く、足回りも舗装路を高速で走る様には出来ていないのでコーナーでギャップに乗るとボヨヨーンと飛んで行く。ギャップの弱さはパジェロミニの比じゃないし、横風にも弱い。
ただ、高速道路は舗装状態がかなり良いので、市街地の継ぎはぎと轍だらけの舗装路に比べれば快適に走れる。快適な巡航速度は80km/h程度なので大型トラックについて淡々と走ればさほど苦にはならない、と思っていたけど実際はトラックも90km/h位で走っているので、80km/hでは追いつかれて邪魔になる。頑張ってトラックと同等の速度を出した方が良い。
速く走ろうとはとても思えないし、オービスやパトカーに怯える必要が無いのは利点かもしれない。あと、高速道路ではほとんど変速しないのでMTだから運転が楽しいという事も無い。
感想
ダート項目以外では軒並み平均以下の評価でしかないポンコツを有難がって乗るのは何故だ?といえば、面白いからだ。なるべく客観的に評価しようとすればどうしたって平均以下になる。軽トラは快適で便利な乗用車を目指していないからだ。
それでも、軽トラは面白い。極めてシンプルで、車としての最低限の機能しかない(コストダウンのせいで)。色々と法規制が厳しくなった今、これだけ簡素な車はもう販売出来ないだろう。ただ著しいコストダンの影響で、質感、操作感、ドライブフィールも著しく低い。フォード・Kaから乗り換えた際に、全てにおいて余りにも粗雑な印象で「こんな物が長年愛用出来るだろうか?」と心配になったけど時期に慣れた。日本の一般道ならこれでも問題無い。どうせ市街地ではせいぜい50km/hくらいしか出せないのだし、一般道なら80km/h未満の速度域に焦点を絞っているこういう車でも充分面白い。簡素ゆえに車の運転は面白いし、軽い車体は操作に対する反応が速い。パワーも無いし電子的なアシストも無いので、本当に素で操る事になる。それは車の運転の本質だと思う。フォード・Kaは簡素でとても運転が楽しい車だったけど、ミニキャブトラックもまた運転が楽しくてしょうがない。広い荷台も魅力ではあるけど、選定の一番の理由は軽くて簡素で運転が面白いからだ。
ホンダの軽トラは「農道のフェラーリ」、スバルは「農道のポルシェ」と言われるけれど、三菱はスーパー7だ。走る事(と荷を積む事)以外の機能は潔く排除されている。命(安全性)よりも荷(積載性)を優先させるなんて、マジでクレイジーなマシンだ。レーシングカーでもそんな事はしない。そんなキチガイじみた軽トラでも、1999年以降のモデルは本当に最低限の安全性は保たれている。これは僕にとっては理想的な車だと思った。パジェロミニもシンプルで機能的でとても良い車だと思うけど、ダートでの走破性能を上げている事によって舗装路走行が苦手になっている(パジェロを名乗るなら当たり前なんだけど)。ミニキャブトラックもパジェロミニ同様シンプルで機能的だけど、パジェロミニよりも舗装路での走行に不満が少ないし、更にシンプルで本当に必要な物以外何も無い。究極にシンプルでありながらとても機能的で一切のムダが無い。徹底的にムダがそぎ落とされたのはコストダウンが理由ではあるけれど、これは一種の究極の機能美であり僕にとっては1つの理想形だと思う。
軽トラは乗用車と違うカテゴリーになるから、同じ土俵で競わなくても良いというのもメリットではある。他の車と比べて新型であるとか、高価であるとか、高性能であるとか、便利であるとか、格好がいいとか、そういうマウントの取り合いに巻き込まれる事が無い。僕は本当に気に入って乗っているので、高級車とか大きな車とかスポーツカーとか、そういう物に対して卑屈になる必要が無い。大人の男に似合う車、というのはおっさんや爺さんが乗っている印象という自虐であると共に、そういうマウントからは引いた違う次元に価値観を見出している達観した大人が乗る物だと思うからだ。
軽トラに対する懸念事項
当初軽トラに対する懸念は
1)加速
2)高速巡行性
3)乗車姿勢
の3点だった。通勤距離が往復90kmあるので耐えられるか心配だった。
1)加速
パジェロミニ(NAエンジン)の時は加速が悪く、加速時の伸びも無かった。頻繁にストップ&ゴーを繰り返す市街地走行はその都度フル加速しなければならず、一応問題は無いけどかなり苦しい思いをする。対してミニキャブトラックは駆動系はほとんどパジェロミニと同じで更にエンジン出力も低いけど、スペック上では車体が140kgほど軽いので充分な加速をする。実際はもっと軽く感じて、80km/h位までは結構伸びて楽しい(それ以上は吹けきってしまう)。
2)高速巡行性
80km/h時のエンジン回転数は4300rpmくらい。乗用車タイプの軽自動車と比べると回転数は高いけど、80km/hまでなら巡行しても苦にはならないので一般道なら夜間の幹線道路やバイパスも含め充分な動力性能だと思う。最も快適な巡航速度は60~70km/h(3~4000rpm)くらいなので、飛ばす気にならない、遅い車に詰まっても苦にならないのは平和的で良い。
3)乗車姿勢
乗車姿勢は見ての通り座席は本当に90度。背もたれの角度はフルバケよりも厳しい。ただ、それも僕には苦にならなかった。僕は姿勢が悪くて猫背気味だったり俯いたりしていると首から酷い片頭痛に発展してしまう。自由が効くリラックス出来るシートだと姿勢が悪くなって長時間運転すると片頭痛になる場合がある。軽トラのシートの場合「取れるポジションが決まっている」ので片頭痛にならない。通勤の度に片頭痛になっていたらまともに生活出来ないので、これは本当に良かった。
懸念していた3点は、いずれも問題は無かった。毎日90km走っても苦にならないし、休日にもっと走りたいと思うほど。ただそれは「僕には問題が無かった」というだけで万人に対して満足出来るレベルに有るとは到底思えない。とても快適な移動手段とは言えないし他人に勧められる様なものじゃない。
トラックにするかバンにするか
同じ軽の商用車で、軽トラにするか軽バンにするかは悩み所だと思う。僕は悩んだ。
軽トラのバンに対するメリットは、
1)車体が軽い
トラックはバンに比べると130kgほど軽くなる(メーカーや車種、駆動方式によって異なる)。軽自動車でこの重量差はかなり変わるし、バンは後方の上部で重量増になるので数値以上に重さを感じる。
2)荷台の拡張性が高い
大きな荷物、背の高い荷物が積める。他、工夫次第で何とでもなる。
デメリットは、
1)乗り心地が悪い
正直トラックとバンでここまで乗り心地が違うとは思わなかった。これは乗り比べた車種の違いも有るかもしれないけど、バンは乗用車並みで普段使いでも充分使えるレベル。対して軽トラはとても乗り心地が悪い。
2)2人しか乗れない
軽トラは2人乗りだけど、バンは後部座席が有る。バンに対して圧倒的に使い勝手が悪い。
3)荷台は雨ざらし
バンだと荷室だから荷物を置きっ放しにしたり、中で寝たり出来る。トラック程では無いけど拡張性は高い。軽トラの場合はボックスやシート等、何らかの施工が必要になる。
4)高速巡行性が劣る
バンの方がハイギヤードになっている。スピードを出してもエンジンが吹け切ってしまう様な事が無いので巡行するのが楽になる。軽トラはローギヤードなので高速巡行が苦手。
5)セミキャブは新車で買えない
今販売されている軽トラは全てフルキャブ構造になる。対してバンは全てセミキャブなので、セミキャブのバンは新車で買える。
普段使いも考えたら、圧倒的にバンの方がメリットが大きい。余程大きな荷物を運ばない限りはバンの方が有利だ。ただ、僕はトラックを選んだ。バイクが積めるというのも利点ではあるけど、トラックの方がよりシンプルで軽量で軽快だからだ。軽トラを運転して楽しいのか?と思われるかもしれないしけど、実際に楽しい。代車で借りたバンは楽で便利だけど、運転の楽しさは圧倒的に軽トラの方が上だった。ただ、これは2名乗車が許される状況だから出来た。3名以上乗る必要があるなら軽トラは絶対に選べない。
二駆か四駆か
シンプルさで言えば二駆の方がよりシンプルで良い。中古車の場合は一般的に四駆よりも二駆の方が安いし、玉数が多いので程度が良い物を探せる。また、構造がシンプルになる分トラブルも避けられるし、使わない四駆を絶えず抱えて走るのもムダ。
それでも僕は四駆を選んだ。通勤時に雪が降る可能性が有るのと、冬の登山で積雪路を走る可能性が有ること、もし林道の奥でバイクを谷に落っことしても四駆の軽トラが有れば引き上げに行けると思ったからだ。
以前二駆の軽トラ(ダイツハ・ハイゼットトラック)に乗っていたけど、積雪路にはとても弱い。後輪駆動だから雪道に弱いのは当然だけど、軽トラの場合は車幅が狭いのでトラックや普通車の轍に乗れず絶えず左右に振られる、更にホイールベースが短いので直進安定性が悪い、空荷だと後輪に荷重が掛からず滑りやすい、タイヤ径が小さいのでスタックしやすい、という欠点がある。ホンダやズバルはエンジンが後ろに有るので空荷でも後輪に荷重が掛かりやすい傾向にはあるけど、それ以外の欠点は避けようが無い。また、以前の軽トラの時は積雪時には荷台後部に重りを載せていたけど、後輪に荷重を掛け過ぎると頼りないフロントが更に頼りなくなる。
二駆、四駆それぞれにメリット/デメリットが有るので使う環境次第かと思う。
何を載せるか
軽トラはシンプルで機能的で楽しいから乗っているんだけど、別に荷物を載せる予定が無くても、アウトドアに使わなくても、軽トラに乗っても良いと思う。ジムニーに乗る人の大半がオフロードを走らない様に、別に載せる荷物が無くても荷台を活用する予定が無くても軽トラに乗ったって良い。また、広大な荷台の活用方法はユーザー次第だ。ホームセンターやDIYが好きな人には向いていると思う。
荷台に何も載っていなくなって、夢と可能性は載っている。昔は農家でもないのに軽トラに乗っている人は変人だと思われていたから、好きに乗れる今は良い時代だと思う。
セミキャブに対するこだわり
ただ、そんな軽トラも「セミキャブ」でなければ買ってまで乗ろうとは思わなかった。多分最近の軽トラはもっと乗り心地が改善されていて装備も充実しているだろう。それでも今更セミキャブ以外の軽トラに乗るつもりはない。
それは単なる僕の好みの問題だ。セミキャブのあのフロントオーバーハングがほとんどゼロみたいな構造が好きだからだ。1990年代後半頃までは、フロントオーバーハングが短い乗用車なんて無かった。やけにノーズが長い野暮ったい車しかなかった。それが1990年代終わり頃からショートオーバーハングのモデルが出てきた。ミニキャブはその最たる物で、発売当初は衝撃的だった。こんなに極限まで切り詰めた車はそうそう無い。これはもう機能美の集約と言っても良い。各メーカーが総力を挙げて開発したセミキャブの軽トラは、もっと評価されるべきだった。
そんなセミキャブの軽トラは、今後も新車で販売される事は無さそうだ。スズキにしてもダイハツにしてもフルキャブの軽トラで堅調に販売されているから、よほど状況が変わらない限りはセミキャブ構造にはしないだろう。
20年以上昔の古びた軽トラなど一般的には価値が無い。だけど、この年式の程度の良いミニキャブトラックはとても希少で今後はますます入手が難しくなるだろう。だから僕はこの車を大切に乗る。
唯一のウィークポイント
気に入ってはいるけど、1つだけネックなのは乗り心地が悪過ぎるという事。乗り心地という生易しいものではなく、路面からの激しい衝撃。あんまりにも酷いので車体にダメージが蓄積しそうだ。十数万円する高価な車高調までは要らないけど、バン用のダンパーやバネを流用して安価にもっと良く出来ないか考えてる。また、乗用タイヤやタイヤサイズの変更で多少でも緩和されれば手軽に出来る。
参考
ミニキャブトラックに関する過去記事一覧